70話 運命の選択

【鬼灯空さんと、天神穂乃果さんは、てるてる坊主ではありませんでした。話し合いを続行してください。3日め、スタートです】


「おい、どうしてくれんだよ!」


 ゲーム開始の合図が鳴るや否や、アカネが怒声をあげた。


「天気を知れるやつがいなくなったじゃねーか! 情報なくなったぞ!」

「……」


 ミナミは俯いたまま、何も言い返さない。


「お前のせいだ! 死ね!」

「死んでつぐなえ!」


 アカネとシンが、ここぞとばかりに罵声を投げかける。


(マジでどうすんだ、ミナミ?)


 シュウヘイは、ちらりと隣のクラスメイトに目をやった。


(今回はこいつらの言う通りだぞ。おまえのせいで、気象予報士が死んだ。さすがにかばえねーぞ……)


 俯くミナミの表情は伺えない。

 ただ黙って、罵倒を受け続けていた。


(さて、どうする)


 敵対するようにして向かい合う4人から、少し離れたところで、サトリは思考を始めた。


 もはや、プレイヤーの死を悼む者は誰もいなかった。


(3日めが始まった時点で、2対2の対立ができあがってる。どっちかに、てるてる坊主がいる……けど、てるてる坊主の味方の役職がいないから、これはあんまり気にしなくていいか。私が考えるべきは――)


 ミナミとシュウヘイ、アカネとシンの結託を交互に見る。


(どっちの味方につけば、生き残れるか)


「おい、シン。もう決まってるよな?」

「ああ。日高美南一択だ」


 アカネとシンが頷き合う。


「……サトリさん」


 ミナミが呼びかける。


「真っ先に人を殺そうとしたそいつらと、私たち。どっちを信じる?」


 覚悟の決まった表情で、そう問いかけるミナミ。

 サトリは、じっと彼女の目を見つめた。

 数秒間ほど見つめ合う2人。先に視線を反らしたのは、サトリだった。


「きみに悪意はなさそうだね」


 穏やかな顔で、そう呟く。


「いいよ。日高美南。きみを信じる」

「はぁ!? なんで!!」


 サトリの選択に、アカネが怒鳴った。


「これはワタシなりの推理だけど、怪しいのは、朽木伸だと思ってる」

「俺!? なんでだよ!?」


 唐突に矛先を向けられたシンが、青い顔で叫んだ。


「最初は目立たないように立ち回り、鬼灯空が流れを作った段階で便乗、そして、村田華月が流れを作ろうとするのを妨害。この行動が、プレイヤーたちの中で一番怪しかった。それが理由かな」

「目立たないって……、お、オマエだって、そうだろ!」

「流れを見てた。それに、主張したら殺されそうだった。だから、大人しくしてた。以上」


 必死に反論しようとするシンだったが、まったく歯が立たない。短い言葉で言い負かされ、悔しそうに顔を歪めた。


「ちなみに、他のプレイヤーを除外した理由も言おうか。まず、須藤茜は真っ先に過激な発言をしたから除外。木谷周平は疑われそうは発言を恐れることなく、しかも初期でしていたから除外。最後に日高美南だけど……言うまでもないよね。てるてる坊主だったら、あんな目立つことしない。これがワタシの考え。反論ある?」

「…………」


 シンは、敗北感を通り越してフリーズした。

 あまりのすごさに、シュウヘイやアカネまでもがポカンと口を開けた。


 ボーン……。


 話し合い終了の合図が鳴った。


【話し合いの時間が終了しました。10秒以内に、てるてる坊主だと思う人物を指さし、名前を口に出してください】


 てるてる坊主のアナウンスが鳴る。

 ミナミはじっと、ステージを観察し――目を見開いた。


「みんな、今日の投票は――」

「日高美南!」「日高美南!!」


 ミナミが提案をするよりも早く、アカネとシンが指をさす。


「朽木伸!」


 サトリがシンを指さす。

 シュウヘイもそれに続こうとするが、ミナミが制止をかけた。


「シュウヘイ君、今日の投票は……」

「無理だ! 何で今!? もっと早く言えよ!」

「今じゃなきゃ分からなかったの!」


 6、5、4、3……。カウントダウンは、容赦なく迫っていく。


「何してるの!? 早く朽木伸を指さして!」


 サトリが叫ぶ。

 あと1秒。

 時間がない。

 やむを得ない――。


「朽木伸!」「朽木伸!」


 2人は、シンに投票した。


【投票先が確定しました。続いて、今日の天気を発表します】


 下を向いた人差し指の先から、カードが出現し、くるりと裏返される――。


(私の予想が正しければ、無投票にしたかった。……やだ、死にたくない、死にたくない……っ!)


【今日の天気は、雨です。朽木伸さんと、もう1人が犠牲になります】


 ――ミナミの予想は、当たってしまった。



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