第5話 うしろの正面だぁれ?②

 カイトは、絶賛困惑中だった。


「うしろの正面だ~れ」と言った声。


 その声の主が――――分からなかった!


(マズイです。まったくもって、聞き覚えのない声だった!)



 ――雨宮海人あめみやかいとという児童は、ことさら「生物」に対して強い関心を持った。

 川や飼育小屋の生き物を食い入るように見つめ、周囲の声は一切届かない。

 観察対象は「人」も例外ではなく、クラスメイトのみならず他クラスの児童、さらには教師や用務員までもをターゲットにしていた。

 その熱量は、観察対象の人柄、口癖のみならず、日常生活における無意識のクセや行動パターンまでも把握するほど。

 ターゲットからは「お願いだからやめて」と懇願され、周囲(主に、ミナミ)から制止が入るレベルだ。


 そんなカイトが、慣れ親しんだクラスメイトの声を聞き分けられないというのは、あり得ないことだった。

 あまりの異常事態に、カイトはひどく狼狽えていた。


(カイト、どうした……?)


 答えを即答しないカイトに、タクトは違和感を覚えた。

 彼はサッカー部のエースかつ出席番号1番ということで、このクラスで真っ先に観察対象になった被害者だった。

 彼の観察眼をさんざん見せられているからこそ、声ごときで迷っているのがおかしいと思ったのだった。


(……か細くて、ひょろひょろとしていて、じゃっかん掠れた声。そんな声の人、この中にいなかったはずです)


 声の特徴を思い出しながら、カイトは思案する。

 そして、1つの考えを絞り出した。


(分かりました。1人だけ、喋らなさ過ぎて声がよく分からない人がいました)


 眼帯の女子児童。

 名を、木戸千尋きどちひろという。

 理由は不明だが、右目に眼帯をつけている特徴的な女子だ。

 彼女はそのコンプレックスゆえなのか、人と関わることをしないどころか、喋ることもしない。授業で先生に当てられた時も、声を発さずノートに書いたものを提示して答えていた。

 それゆえに、カイトのみならずクラスの全員が彼女の声を知らなかった。


(うしろの正面は、チヒロさんに違いありません。ですが、万一間違えた時にシャレになりませんからね。与えられた救済、ありがたく使わせて頂きますよ!)


 カイトは1つ息を吸うと、質問を口にした。


「うしろの正面は、女子ですか?」


 性別の質問。これが最も安パイである。

 うしろの正面に全く見当がつかなくても、大幅に当てる確率を上げることができる。

 今回の場合、参加者は男子5名、女子4名。9分の1の確率から、前者ならば5分の1、後者ならば4分の1にまで選択肢を絞れるのだ。


 カイトは「うしろの正面」がチヒロであることへの確証を強めるため、この質問を投げかけた。


 ――しかし、てるてる坊主から返ってきたのは、想定外のものだった。


【――"いいえ"。男子だよ】


 絞れたとはいえ、確率は5分の1。

 あと2回の質問で、どれだけ選択肢を絞ることができるのか。

 カイトは頭をフル回転させ、次の質問を探した。




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