第4話 うしろの正面だぁれ?①

【プレイヤーのみんなは、カイト君を囲んでください!】


 てるてる坊主のアナウンス。

 クラスメイト達は輪を作り、次々に手を繋いでいく。


「あなたと隣ですの? 嫌ですわ!」


 お嬢様口調の女子――エリカが毒づく。

 毒を吐かれた男子、ツヨシは「あ"あ!?」とブチ切れた。


「黙れやクソ女! んなこと言ってる場合か!」

「キーッ! なんですってぇえええええ!?」

「…………」


 生死のかかったゲームがこれから始まるというのに、勃発したくだらないケンカ。

 エリカの隣にいるロングヘアの女子――カナは、いたたまれなくなって俯いた。


「おい、お前らやめろよ! こんな時に!」

「そうだよ、タクト君の言う通りだよ! やめなって」


 短髪の男子――タクトと、セミロングの女子、ユウナが諫める。

「こんな時」という言葉に、2人はぐっと押し黙った。


【キミら緊張感ないね~。これから死ぬかもしれないっていうのに】


 てるてる坊主が呆れて言った。


(本当ですね。こればかりはてるてる坊主と同意見です)


 周囲に聞き耳を立てながら、カイトは心中でそう思った。


(今、真後ろにいるのは……。分かりかねますね。今さっき喋った人たちでないのは確実ですが)


 カイトはぎゅっと拳を握りしめた。

 手のひらに、汗がにじむ。


(お願いします。もっと……、もっと皆、喋ってください! 僕に声を聞かせてください!!)


 ――カイトの必死の願いも虚しく。


【みんな、カイト君を囲んだね。それじゃ、歌い始めてね♪】


 歌唱開始の合図が告げられる。

 シュウヘイが、皆を見渡して頷いた。

 各々、意気込むように頷き返す。

 皆の反応を受け取ると、シュウヘイは「せーの」と呼吸を合わせる一声を発した。


(始まる――!)


 カイトは緊張を走らせ、限界まで耳を澄ませた。


 か~ごめ か~ごめ

 か~ごのな~かのと~りは


(待って待って待って待って待って!!)


 一斉に鳴る、9人の歌声。

 あまりに混沌としていて、誰が誰なのか全く分からない。


 誰がどの声?

 誰がどこにいる?

 暗くて何も見えない。

 間違えれば後ろのクラスメイトが死ぬ!!


 カイトはパニック状態に陥ってしまった。


 いつ いつ でやる

 よあけのば~んに つ~るとか~めがすべった


 無情にも、歌は続く。

 あっという間に、「それ」の直前まで歌い終わってしまった。


(来る――――!)


 歌の終わり。

 運命の時。

 ついに、「その言葉」が唱えられる――――!


「うしろの正面だ~れ」


「――――!」


 最後のフレーズだけ、独唱だった。

 たった1つの声が鳴ったのは、カイトの真後ろから。


 ――つまり、先ほど鳴った声の人物を当てれば良いのだ。


(うまくいったな!)


 シュウヘイがショウタに目配せした。

 ショウタは、恥ずかしそうにはにかみ笑いをする。


 最後のフレーズだけ、「うしろの正面」になった者が歌えばいい。

 それは、ショウタが考えた、ルールの穴をつく必勝の作戦だった。

 だが、気弱な彼は言い出す勇気を持てなかった。

 そのため、発言力のあるシュウヘイが代わりに作戦を伝えたのだった。


 あとは、カイトが声の主を当てるだけ。――の、はずだった。




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