第6話 うしろの正面だぁれ?③

(男子の参加者は、タクト、ショウタ、タカシ、シュウヘイ、ツヨシの5人。あと2回のチャンスで、個人に特化した質問をするのはけっこうギャンブルですね。どこから攻めましょう?)


 まず、スポーツが得意か否かを質問するか考えて、すぐに止める。

 タクトはサッカー部エース。

 タカシとツヨシは毎日昼休みに校庭でサッカーをしている。

 シュウヘイは文武両道で何でもできる。

 つまり、ショウタが後ろの正面でない場合、4分の1にしか絞れないのである。


(――とすれば)


 良い質問を思いつき、カイトは口を開いた。


「うしろの正面は、勉強が得意ですか?」


 この質問であれば、「はい」ならば2分の1、「いいえ」ならば3分の1にまで絞ることができる。

 なぜなら、このメンバーの中で勉強ができるのは、シュウヘイとショウタしかいないからだ。


 てるてる坊主が答える。


【"いいえ"。くすくす、あと1回だよ。頑張ってね】


("はい"ではありませんか……。ですが、あと3人まで絞れました)


 残る選択肢は、タクト、タカシ、ツヨシの3人。

 カイトは、あと1回きりの質問を必死に考え始めた。


(ねぇ、これ本当に大丈夫なの……?)


 カナが、青い顔をしながら隣の女子に目で訴えかけた。

 隣の女子――ユウナは、「分からない」と言う代わりに強張った顔で首を傾げた。


(もしかして……)

(まさか……)


 ユウナとカナは、同時にあることに気づく。


(歌声が地声と違うから、聞き分けられないんじゃ……?)


 さーっと血の気が引いていく。

 青い顔で、輪の中心で座り込むカイトを見つめ、祈った。


 誰もが思った。

 作戦は無意味だった。

 結局は、カイトを信じて待つしかない、と。


(いいや、本来は無意味にならないはずだった!)


 絶望を振り切るように、ショウタは首を振った。


(このくらいの童謡なら、地声とそう変わらずに歌えるはず……! 作戦を考えついた時はそこまで考えてなかったけど……っ、でも、この歌で声なんて作らないだろ! 

 なのに……っ)


 ショウタは恨めしそうに「うしろの正面」を睨む。

 睨まれた彼は、気まずそうに視線を逸らした。


(ダメだ……どれを聞いても、最悪2分の1になってしまいます。どぉしましょう……)


 カイトは頭を抱えた。

 もう、どう足掻いても無理だった。

 どの質問をしようが、確定できるものを聞けなければ、絶対に2分の1まで残ってしまう。


 ――もう、考えても無駄だろう。

 意を決して口を開こうとした時、カイトの頭に閃光が走った。


(そういえば……! 歌声を聞いたことのない人たちが、このクラスで3人だけいたんでした!)


 地声と歌声は違う。

 クラスメイト達の想いが伝わったかのように、カイトにもその考えが出てきた。


(1人は声すら聞いたことのない、チヒロさん。そして、もう2人は――――)


 強い確信を得ると、カイトは口を開いた。


「うしろの正面は、鼻にばんそうこうをつけていますか?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る