16話 ミケ出現
【みんにゃ、こんにちはだにゃ!】
てるてる坊主が上に退いていき、代わりに舞台袖から現れたのは、手のひらサイズの招き猫。
幽霊のように、空中に浮いた状態で登場した。
【ボクはミケ! このゲームを担当するゲームマスターだにゃん!】
手招きポーズは一切動かず、ただただフォルムが左右に揺れる。
「付喪神かな……?」
ショウタが呟く。
「ツクモガミ?」
ミナミが聞き返す。
「魂が宿って、しゃべったり動いたりするようになった物を、そう呼ぶんだ」
「ずいぶんと馬鹿らしい話ですね」
カイトが蔑むように言った。
「カイト……?」
見たことのない幼馴染の表情に、ミナミは困惑した。
「妖怪。怪談。神。信仰。そんな非科学的なモノは、存在しないんですよ」
「は……?」
眉をひそめるミナミとショウタ。
カイトの言っていることが、到底理解できなかった。
「ごめん。キミの言ってること、いつも分からないけど、今のは特に分かんないや」
「私も。今回ばかりは通訳できないわよ」
「どうしてです? 簡単なことですよ。妖怪なんて、この世に存在しないんです」
「なら! てるてる坊主にさっちゃん――あいつらは何なのよ!? 今、私たちの目の前にいるアレは何なの!? 説明してよ!」
【そこ~。うるさいにゃ】
皆の視線が、一斉にカイトたちに集まる。
気まずくなり、3人は顔を俯かせた。
【もう~。黙るの待ってたのにゃ。次喋ったら引っ掻き殺すにゃん】
「ごめんなさい……」
「すみませんでした……」
青ざめた顔で、ミナミとショウタは謝罪を口にした。
カイトは不貞腐れた表情で、ぷいとそっぽを向いた。
【こほん。あらためて、ゲームの内容を説明するにゃ】
その言葉の直後、体育館の床が一瞬で変化する。
木製だったはずのそれは、半透明な正方形のタイルで埋め尽くされた状態となった。
1つ1つのタイルは、人が1、2人ほど入れる程度の面積だった。
【今、みんなの足元に出てきたのは、ゲームで使うマスにゃ。22×22の、合計484マスあるにゃん】
ミケが説明する。
【みんなには、5つのチームに分かれてもらうにゃ。そしたら、チームで1人、代表を選ぶにゃ。代表になったプレイヤーは、このマスを使ってゲームをしてもらうにゃん】
また、代表制――。
かごめかごめはオニが、さっちゃんは回答者が。
プレイヤーたちの命という重圧を背負い、ゲームをさせられた。
今回も代表者に責任がのしかかるのかと、皆うんざりとした。
【ゲームはターン制だにゃ】
プレイヤーの心中なぞ知らず、ミケはスクリーンにゲームの説明を映した。
【プレイヤーは、1ターンごとに5マスまで移動できるにゃ。けど、斜め《ニャニャメ》はダメ。1回踏んだマスをもう1回踏むのもダメにゃ。1回踏んだマスは真っ青に色が変わるから、それで区別してほしいにゃん】
【移動するときは、自分のいる面と接しているマスにしか進めないにゃ。移動できる面がなくなったプレイヤーは、ゲーム終了まで動けないにゃ。すべてのプレイヤーの移動できるマスがなくなった時点で、ゲームは終了にゃ】
マスの見取り図を映し、アクションの説明がなされる。
【マスにはランダムに肉球が隠されているにゃ。そのマスを踏んだら、肉球ゲットにゃ! 肉球をより多く集めたチームの勝ちとなるにゃん。ここまでで質問はあるかにゃ?】
「行きたいマスが被った場合、どうするんスか?」
整った顔の男子児童が、手をあげた。
【いい質問だにゃ。その場合は、押し相撲で勝負してもらうにゃん】
画面が切り替わり、2人の人間のデフォルメ絵が映し出される。
【押し相撲に勝利したら、そのマスを踏む権利を得られるにゃ。負けたほうは、移動可能であるランダムなマスへと追いやられるにゃ。押し相撲に負けて、移動できるマスがなかったら、その人は脱落するにゃん】
【ゲーム終了までに脱落者が出た場合、いったんゲーム中断にゃ。そのチームからまた代表を選んで、ゲームに参加してもらうにゃ。そして、脱落する1ターン前の場所からスタートにゃ。移動してもらってから、次のターンに移るにゃん】
【このときの肉球に関しては、脱落する1ターン前までの肉球が引き継がれるにゃ。脱落したターンの肉球は、消滅するにゃん】
「なるほどね。勝負するのは、だいぶリスキーなのね。その分……」
にやり。
とポニーテールの女子児童が笑った。
【最後に1つにゃ】
再び画面が切り替わる。
真っ黒な背景に、威嚇するネコのキャラクターが映し出された。
【484マスのうち、どれか1マスだけ。ネコが隠れているにゃ。そこを踏んでしまったが最後――】
ミケの目が、黄色く光る。
【引っ掻き殺されて、脱落にゃ。くれぐれも、ねこは踏まないように、にゃ】
ごくり。
唾を飲み込む音が鳴った。
【その場合も、押し相撲の時と同じ処理をするにゃん。ちなみに、1回ネコが踏まれたら、もう復活することはないにゃ】
そこまで説明すると、スクリーンの映像は切られた。
【あ、言い忘れてたにゃ。このゲームは、5チーム中上位4チームが生き残れるにゃ。ビリのチームが脱落、死ぬにゃん!】
ミケは慌てて付け足すと、拗ねたように床に寝そべった。
【本当にゃら、1チームだけ生き残りのつもりだったにゃ。にゃのに、かごめかごめで死にすぎなんだにゃん。救済ルールにゃ。感謝して欲しいにゃん】
「逆に負けた時ショックすぎるわよ、それ……」
ミナミが顔を青くしてぼやいた。
【それじゃ、チームの発表をするにゃん!】
再びスクリーンがオンになり、チーム分けのされた画面が表示される。
「私はBチームか……」
「ボクもBチームです。カイト君は?」
「お、奇遇だな。おれもBなんだ」
チームの確認をするミナミとショウタの後ろから、シュウヘイがやってきた。
「おまえは? カイト」
「僕は……Aチームです」
「そっか……」
【自分のチームが確認できたら、それぞれの場所に集まってね~】
残念に思う間もなく、アナウンスが入る。
カイトは特に未練のない様子で、Aチームの集合場所へと向かっていった。
ミナミは心配そうに幼馴染の背中を眺める。
彼女の肩を、ぽんとシュウヘイが叩いた。
「行こう。信じるしかない」
「――そう、だね」
わだかまりを抱えながらも、ミナミ、ショウタ、シュウヘイの3人は、Bチームの集合場所へと向かった。
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