39話 浦島太郎・こころ
暗闇移動組・ゲーム「浦島太郎」
(難易度どおり、簡単だな。素直にこっちを選んで良かった)
「正解」の選択肢を選びながら、高橋はそう思った。
『みんな、浦島太郎に行くよ~。せんせいについてきて!』
ゲームの選択時間。
高橋は、2年4組の児童たちに、浦島太郎に参加するよう号令をかけた。
『は~い!』
皆、高橋の指示に従い、浦島太郎の場所へ列をなす。
2年4組の児童のみならず、「簡単」という難易度に惹かれた大多数のプレイヤーたちが並んでいた。
『あれ? ホノカちゃん、どこ行くの?』
2年4組の列から外れ、ホノカはとてとてと真ん中に並んだ。
『わたし、ももたろうに参加するっ!』
きっぱりと、ホノカは言った。
『ダメだよ、ホノカちゃん!』
『そうだよ、せんせーのいうこと聞きなよ!』
クラスメイトから非難が飛ぶが、ホノカは耳を塞いで桃太郎の場所に座り込んでしまった。
『ねぇホノカちゃん!』
『ねぇ~~っ!』
『はいストーップ!』
ホノカを連れ戻そうとする児童に、高橋が制止をかけた。
児童の動きが、面白いくらいにぴたっと止まる。
『ホノカちゃんがあっちに行きたいって言ってるんだから、そっとしておいてあげよう。ね?』
高橋の鶴の一声で、児童は列に戻っていった。
(あのせんせい、やっぱりこわい。あいつの言うことなんか、聞くもんか)
クラスメイトと担任の姿を見たくなくて、ホノカは膝に顔を埋めた。
(おねえちゃん……。あいたいよ……)
ホノカの目から、涙が零れた。
ほどなくして、選択時間は終了し、皆それぞれのゲーム会場に散っていった。
(ホノカちゃん……。残念だよ。キミの安全も、確保してあげたかったのに)
最終問題。
難なく「正解」を選んだ高橋は、ゲーム選択の時のことを思い返す。
小学2年生が挑戦することを前提として、高橋はゲームを選んだ。
桃太郎は、「障害物競走」という名前から、体を使うゲームであることは明白だった。加えて、「ふつう」という難易度。未だ身体が未熟な小2に可能な運動とは考えにくい。
金太郎は、「むずかしい」という難易度が全てだった。ルールは単純明快だが、肝心の金太郎がどんな危害を加えてくるのか分かったものではない。とても、小2の身体で耐えられるゲームではないだろうと判断した。
そこまで考えたうえで、高橋は自分のクラスを「浦島太郎」へ導いた。
その選択は成功し、「浦島太郎」のゲームはあまりに簡単だったという結果になった。
事前の説明どおり、ただ「魅力的な選択肢」を避け続けるゲーム。
なんと簡単なことか。
高橋は、思わずあくびを漏らした。
【ヨユーだったな、高橋センセ】
「正解」の選択肢を選び、先に進むと、もといた暗闇に戻ってきた。
そこには浦島が立っていて、ぷらぷらと高橋に手を振った。
【おかえり。クリア第一号だぜ】
「おや、そうなのかい? 焦らず来たから、先にクリアしている子もいると思ったけど」
【確かめてみるか?】
浦島が手をあげると、パッと映像が映し出された。
そこに映されたのは、目を覆いたくなるほどの惨状だった。
『ママああああああああああ!!』
『おうちにかえりたいよおおおおおお!!』
『うわあああああああああん!!』
「な――――」
児童の悲痛な泣き声が、暗闇の中に響き渡る。
ありもしない母親の姿を追い求める者。
大声で泣きわめく者。
うつろな目で徘徊する者。
そこに映し出された誰もが、正気を失っていた。
【何でこうなってるか、分かるか? 高橋センセ】
高橋に歩み寄り、浦島が問う。
【分かんねーよな。だって高橋センセ、人の心なさそうだし】
「っお前らが、それを言うか!!」
【おっと、怖い怖い】
高橋の腕を、2体の骸骨が拘束した。
骸骨の力は強く、高橋が藻掻こうとビクともしなかった。
【さっちゃんの二の舞はごめんだからな。大人しくしててもらうぜ】
「くっ――――」
【そんじゃ、この映像を見ながら、自分のかわいい子どもたちが何でこうなってるか、考えてろよな。答えが分かったら、俺に教えてくれよ】
そう言うと、浦島はカーテンを閉めるようにして、暗闇の向こうへ消えていった。
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