49話 拷問ゲーム①

 B 1番がほしい

 A 9番がほしい


「はあぁ!?」


 指名された桑原が、怒声をあげた。


「何で私なんだよ! 絶対高橋の仕業だろ!」


 怒り狂う桑原に、Aチームで指名された者――アキヒロは戦々恐々とした。


「高橋先生、やっぱり怖いよ……。大丈夫なの?」

「おれの言う通りにすれば大丈夫だよ」


 にっこりとして、高橋が言った。


「で、でもそしたら……!」

「それはごめん。でも、生きてるほうが、絶対にいいから」

「…………」


 笑顔で断言する高橋に、アキヒロは心の底から戦慄した。

 どちらへ行っても恐怖――逃げ場のない状況に、アキヒロはべそをかきながら前へ出た。


【両者そろったね。それじゃ、2人とも、床に落ちてるカードを拾ってね】


 てるてる坊主のアナウンスが鳴る。

 桑原は、乱雑な手つきで4枚のカードを拾い上げた。

 アキヒロもまた、ガタガタと震えながらカードを拾う。


(怖ぇ……。もうやだ、逃げたい……)


 カードを持つ手が震える。

 対面する女教師は、鬼の形相。ゲームのルールがなければ、今すぐ殺されそうな気迫だ。しかも、鬼女を倒したところで――――。


「う"えぇ……っ」


 嗚咽が漏れる。

 これから訪れるであろう未来は、どう転んでも絶望しかない。


「おい、どうしたガキ。勝負の前から泣きべそか?」


 桑原が挑発する。

 アキヒロにとっては、何を言われても恐怖でしかない。


【準備ができたら、花いちもんめの掛け声で、カードの中から1枚、お互いに提示してね!】


 桑原はすぐに1枚選んだ。

 アキヒロも、手を震わせながらカードを決定する。


 しばしの沈黙のあと、2人は提出するアクションを取った。


「「はないちもんめ!」」


 一斉に出されたカード。


「は――――?」


 桑原が、驚愕のあまり恐ろしい形相になる。

 提示されたカードは、桑原は「指」。アキヒロは「腕」だった――。


 ◇ ◇ ◇


 話し合い・Aチーム


『みんな、実はもう相手の目星はつけてるんだ』


 高橋が笑顔で言う。


『みんなにとっても、まったく躊躇いのない相手だと思う』

『それって、桑原先生のこと……?』


 おそるおそる、ミナミが聞くと、高橋は迷いなく頷いた。


『でも、桑原先生ってすげぇ怖ぇよ。高橋先生ならへっちゃらなんだろうけどさ……』

『おや、相撲の名人がそんなことを言ってはいけないよ』


 弱音を吐くアキヒロの肩を、高橋が励ますようにぽんと叩いた。


『大丈夫。あいつが強いのは格闘と口調だけ。


 トントン、とこめかみをタップしながら、高橋は説く。


『あいつの思考回路的に、こう考えると思うんだ。「ガキが大部分を切断される勇気なんざ持ってるわけがない。せいぜい爪とか指が限度だろう。むしろ痛みが少なくて済むのを狙って、絶対爪とか出してくるだろw」ってね。キミたち子どもを、バカにしてるんだよ』

『でも、実際そうだよ。爪でも痛そうなのに、それより上なんて絶対ムリ!』

『そんな考え方じゃあ、死ぬよ』


 苦言を呈するカヅキに、高橋は冷めた表情で言い放つ。

 一切の感情を消し去ったかのような顔つきに、カヅキは恐怖のあまり漏らしそうになった。


『大丈夫。勝てばもとに戻るんだから、安いものだよ』


 優しい笑顔に戻って、高橋は励ますように言った。

 平然と「体を欠損させろ」「ゲーム終了まで激しい痛みに耐えろ」と言い放つ男に、児童は激しい恐怖を抱いた。


『おれに任せて。今度こそ、きみたちを勝ちに導いてみせる』


 高橋の表情は真剣そのものだったが、凄まじい狂気を孕んでいた。

 子どもたちは、黙って頷くよりほかなかった――。


 ◇ ◇ ◇


「ね、ねぇちょっと待ってよ。私まだ――」


【見苦しいぞ~、桑原


「ぎゃあああああああああああああ!!」


 てるてる坊主の意味ありげな呼び方の後、猫又が数匹飛びだした。

 鋭い爪で、桑原の指をすべて切り落とす。

 ボタボタと、赤黒い血が床に落ちた。


 彼らは、「ねこふんじゃった」の処刑や強制マス移動に登場した猫又たちだった。


【ふふふ。キミはいい子だねぇ、ミケ君】


 てるてる坊主は満足げに呟く。


【ちゃんとゲームをやってくれる。ぼくの言うことを聞いてくれる。従順な、ぼくのしもべ……】


「い"だいぃ……っ、いだいよぉおおおおっ!」


 怯えるアキヒロの前で、桑原は苦悶の声をあげている。

 狂暴な鬼女も、痛みの前では無力なようだ。


【あはははは! 大の大人がそんな声あげて、なさけなーい!】


 てるてる坊主がせせら笑う。


【そんじゃ、そろそろ殺しちゃうね。桑原にゃん!】


「あ"あああああ!! いだ――――」


 白い布を括った首吊り縄が振ってきて、桑原は吊り上げられていった。


 "てるてる坊主"が、1体出来上がった――。


 犠牲者……教師1名。

 残り、36名……。






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