第10話 さっちゃん・説明と選定

【みんな、はじめまして~!】


 舞台袖から、女の子のぬいぐるみがひょっこりと顔を出す。

 低学年の子と同じくらいの、大型サイズだった。


【あたし、さっちゃん。これから、ゲームのせつめいをするね!】


 ぬいぐるみ――さっちゃんは、客席側を向いたまま、横に移動した。

 正面を向いたまま手足をうねうねとさせる動きは、不気味以外の何物でもなかった。


【このゲームは、ずばり! 歌詞当てゲームです!】


 さっちゃんが、大げさに身振り手振りをしながら言う。


「すごいですね。どういう仕組みで動いているのでしょう。てるてる坊主もそうですが」


 まるで魂でも入っているかのよう。

 カイトは好奇の眼差しでステージを眺めた。


「いいから黙って説明聞いてなさいよ」

「あいたっ」


 カイトの頭に、ミナミのゲンコツが落とされた。


【まず、みんなの中から、あたしが3人えらびます! えらばれた3人は、ステージに上がって、台の前に立ってね。じゅんびができたら、ミュージックスタート! あたしのことを歌ったうた、「さっちゃん」がながれます! うたが一部空白になったら、いったんミュージックストップ! 空いた歌詞を、10秒以内に答えてね♪】


「さっちゃんの歌詞なんて、覚えてない……」


 頭を抱えながら、青い顔でミナミが呟いた。


【みんな側から見て、左の子からじゅんばんに1問ずつ、ごうけい3問だしていくよ。3問ぜんぶ正解で、ゲームクリア! その場のみんな、全員いきのこります! でも、もし正解できなかったら、その時点で…………」


 さっちゃんは、不自然に言葉を途切れさせると、丸い手で口元を隠した。


【ひ・み・つ♡ とにかく、全問正解めざして、がんばってね♪】


「ねぇ、外れた時点で何が起こるっていうのよ」


 ミナミがカイトに問いかけた。


「分かりません。ですが、ろくなことはなさそうですね」


 カイトが口元に手を当てながら、答えた。


「まさか……」


 少し離れたところで、ショウタが1人呟いた。


(これは、何が何でも選ばれた3人には正解してもらわなきゃダメだ。最悪の場合――――全員死ぬ)


【それじゃ、代表者をしめいします! 1人めの代表者は~~】


 体育館が薄暗くなる。

 ドゥルルルル……と選定の効果音が鳴り、パッと1人の教師にスポットが当たる。


【2年4組のたんにん! 高橋幹人たかはしみきと先生!】


「えっ、おれ? 先生も選ばれるのかぁ」


 当てられた教師――高橋が、間の抜けた声で言った。

 20代半ばの若い男で、親しみやすそうな笑みを浮かべている。


「せんせー! がんばって!」

「がんばれ~! せんせぇえ!」

「あはは、がんばるよぉ」


 子どもたちの黄色い声援に、高橋は笑顔で応えた。


「……なんか、えらい好かれてるわね」

「そりゃあ、おじさんよりお兄さんのほうが好かれるでしょうよ」


 2年4組のやり取りを見ながら、ミナミとカイトが会話する。


【たかはし先生は~、ななななんと! 低学年の中でゆいいつ、かごめかごめで全員生き残りに導いた先生なのです!】


「あはは、たまたまだよぉ~」


 さっちゃんの紹介に、高橋は照れくさそうに頭を掻いた。

 周囲がざわつく。動揺する。

 高橋の優秀さにではない。


 ――かごめかごめで出た犠牲者の、あまりの多さに、だ。


 それを知ったにも関わらず、高橋は絶えず笑みを浮かべていた。


「あいつ、頭おかしいんじゃないの?」


 ミナミがゾッとして呟く。

 カイトも顔を青ざめさせていた。


【つづいての代表者のはっぴょうです! 2人めの代表者は~~】


 ドゥルルルルル……。

 再び、選定の音が鳴った。


【3年3組! 鉢花美月はちかみつきちゃんです!】


 1人の女子にスポットが当たる。

 明るい髪色をした、ふんわりボブの女子だった。


「え、わたし?」


 自分を指さし、きょとんと首を傾ける。


【みつきちゃんは、なんと! うしろの正面をただので、一発で当ててしまいました!】


「だって、わかんなかったんだもん」


 悪びれもなく、ミツキが言った。

 ミナミの表情が嫌悪感に歪む。


「やばい奴ばっかりね」

「極限状態でおかしくなっているのでしょう。僕もおかしくなりそうです」

「アンタはもともとおかしかったわ……」


【さぁ! さいごの代表者の発表です! うんめいの、3人めは~~】


 ドゥルルルルルルル……。

 最後だからなのか、やたらと引っぱる。

 一瞬、ミナミにスポットが当たり、ビクッと肩を跳ねさせた。


 ジャンッ!


 最後に当てられたのは――――。


【1年2組! 七枝夕しちしゆう君です!】


 体操服を着た小さい男の子に、スポットが当たる。

 白いTシャツには、"七枝夕"と書かれた名札が縫い付けられている。


「う、う、……うわあああああああああああああん!!」


 男の子――ユウは、泣き出してしまった。


「酷すぎるわ。あんな小さい子に、こんな重いことをやらせるなんて……」


 やるせない表情でミナミは呟いた。


【ユウ君は、なんと! 担任の先生をふくむ1年生の中で、たった2人の生き残りです! ある意味、ミツキちゃんよりもすごい運だよね!】


「まって……、1年生、ほとんど死んだの……!? 嘘……、さっきのゲームで、一体何人死んだのよ……!?」

「…………」


 数える間もなく吊られていった狂人たち。

 そこには、ゲーム中に死亡した者もきっと含まれていたことだろう。

 、わざわざ天井を見上げる者はいない。

 見えない頭上で、おびただしい数のてるてる坊主が揺れていたことを知り、さーっと顔を青ざめさせた。


【それじゃ、代表者はステージに来てね♪】


 指示に従い、選ばれた者たちは壇上に上がっていく。

 夕は泣きべそをかきながら、ゆっくりと階段を這っていった。


 体育館側から見て、左から高橋、ミツキ、ユウの順番で並んだ。


「…………」


 辺りに緊張が走る中、ショウタは怪訝な顔でステージを見つめた。


【準備はできたかな~? それじゃ、ミュージック……】


 3人が台のところに立ったのを確認すると、さっちゃんは号令をかけた。


【スタート♪】




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る