35話 桃太郎・高所恐怖症、木登りする
「よいしょ、よいしょっ」
開始前は不安しかなかったが、いざ登ってみればどうということはなかった。
カヅキは難なく枝の部分までたどり着くと、サルの模型に触れようと手を伸ばした。
「もうちょっとで――っあ」
ふと、下の景色が目に映ってしまい、カヅキの動きが止まる。
身体が硬直する。
すべてが恐怖に支配される。
足の指がムズムズとして、落下する妄想にとり憑かれる。
「あ……、あ、あ、ア、アアアアア……」
【……何だ? 尋常でないぞ】
桃太郎が異変を感じたその直後。
カヅキの体が、真っ逆さまに落ちていった。
【あの阿呆!!】
桃太郎が、瞬間移動と違わぬ速さでカヅキのいる木に走ると、落下する彼女の身体を抱き止めた。
華麗な動作で着地する動作を、プレイヤーたちはぽかんとして眺めた。
「あ……」
【おぬし、大事ないか! 何を考えておる!】
桃太郎の顔が、一瞬端正な若侍に見えた。
「ありが……」
お礼を言いかけて、桃太郎の顔が元の着ぐるみに戻っているのに気づく。
みるみるうちに正気になったカヅキは、桃太郎の顔にグーを入れた。
【ぐはっ! 何をするか貴様!】
「こっちのセリフよ! 私は高所恐怖症なの! 聞き入れてくれなかったのはそっちじゃん!」
【うぬ……っ】
桃太郎は悔しげな声を出すと、そっとカヅキを解放した。
そして、深々と頭を下げた。
【済まなかった】
「へ……?」
予想外の謝罪に、カヅキは素っ頓狂な声をあげた。
【おぬしの特性をろくに聞かず、げえむを始めたこちらの落ち度だ。済まぬ、このとおりだ】
「ちょ、ちょちょちょ、頭上げてよ! 困惑するんですけどっ!」
カヅキにそう言われて、桃太郎はやっと頭を上げた。
【本来ならば、「サル」のげえむを免除といたしたいところだが……、それでは公平さに欠ける。よって、おぬしが予てより申しておった結界を張ろう。幾度でも落ちて良いぞ】
「地獄なんですけど、それ……」
【るうるは変わらぬ。くりあできなければ死ぬ。それだけだ】
げんなりとするカヅキの肩を、桃太郎は励ますように叩く。
【頑張れ】
力強い激励の言葉。
カヅキは身体に力が湧いてくるのを感じた。
「分かった。頑張るよ」
肩を叩き返すと、カヅキは木にしがみついた。
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