67話 ゲームスタート

【それでは、みなさんに役職カードを配ります。確認お願いします】


 各々のプレイヤーの前に、1枚のカードが出現する。プレイヤーたちは、宙に浮かんだそれを取り、裏返して自分の役職を確認した。


【みなさん、自分の役職は分かりましたね。それでは、1日目を開始致します。話し合いを始めてください】


 ボーン……。

 鐘の音が1つ鳴り、ゲーム開始の合図がなされる。それとともに、役職カードも喪失した。


 広い体育館。

 何の道具もセットされず、たった8人と1体の怪物のみが存在している。

 殺風景な空間の中、疑心暗鬼のゲームが開始された――。


「なぁ、てるてる坊主引いたやつだれ?」


 先陣切って発言したのは、アカネだった。


「そいつを処刑したら終わるんだろ? 早く出てこいよ。てるてる坊主の奴さえ出てくれば、それ以外の全員助かるんだよ。早く出ろ!」


 啖呵を切るその姿は、とても小学3年生のものとは思えないほど凄まじい。

 花いちもんめで爪剥ぎの拷問を受け、とおりゃんせの恐怖を経て、その身を狂気に染めてしまったのだろう。


「出てくるわけねーだろ。アホかお前」


 咎めるのはシュウヘイだ。


「殺されるって分かってて、出てくる奴がいるかよ。お前がてるてる坊主だったら出れんのか? ムリだろ」

「そう言うってことは、オマエがてるてる坊主か? そりゃ死にたくねぇもんな!」


 まくし立てるようにアカネは言う。


「なっ……、そういうわけじゃねーよ! おれは普通のことを言っただけだ!」


 矛先を向けられ、シュウヘイは慌てて反論した。


「案外、ありえるかもしれねーよ?」


 すかさずソラが便乗した。


「こいつ、てるてる坊主を倒して、とおりゃんせすっ飛ばしたじゃん。なんか特別な役職与えられてそうじゃね?」

「おれは村人だ! てるてる坊主なんかじゃねーよ!」

「この状況で村人っつっても、ぜんっぜん信用できねーけど」

「……っ」


 弁明の言葉が見つからない。シュウヘイの表情には、焦りが見えていた。


「なぁ、みんなどう思う?」


 ソラがプレイヤーたちに投げかける。


「現状、いちばん怪しいよね。やっぱり、てるてる坊主を倒してるし」


 シンが言う。


「もちろん。こいつが怪しい!」


 変わらず主張を続けるアカネ。


「うーん……。あやしい、です……」


 よく分からないが、とりあえず場の空気に同調するホノカ。


「……うん、そう、思う」


 場の空気に圧され、しぶしぶ同調するサトリ。


「……わかんないわよ」


 死んだ目で呟くミナミ。


「…………」


 カヅキは何も答えない。


「なぁ、オマエはどう思う?」


 沈黙するカヅキに問いを投げるソラ。

 カヅキはソラを睨みあげると、長いため息をついた。


「ほんっっとにクズ。最っ低」

「は?」

「いっぺん殴っていい?」


 カヅキは憤怒の表情で、拳を握りしめた。

 来るであろう攻撃に、身構えるソラ。


【暴力行為は禁止です】


「ちっ」


 てるてる坊主に諫められ、2人はにらみ合いを止めた。


「っつーかさ! アンタらみんなクズ!」


 ソラから視線を逸らすと、大声で言い放った。


「夜の襲撃がないんだからさ、心眼のヒントを待てばいいじゃん! しかも、最大3日目まで犠牲者なしで進められるんだよ!? 何で蹴落とし合う必要があるわけ!?」

「延命してーのか。オマエがてるてる坊主か!?」


 アカネはカヅキを指差して怒鳴る。

 カヅキはずいっとアカネに近づき、ガンを飛ばした。


「残念でした! 私がその心眼です! 役職持ってなかったら、この空気で堂々と発言できるわけないでしょ!」

「……っクソ女!」

「そういうわけで、みんな! 私のヒントがそろうまで、勝手に投票するのは禁止だからね!」


 悔しそうにするアカネから身を離し、カヅキは堂々と宣言する。しぃん、と静まり返り、場の空気がカヅキに味方した――かと思われた。


「いや、信用できなくないか?」


 そう言ったのは、シンだ。


「この空気で主導権を握ろうとするなんて、てるてる坊主以外にあり得るか?」

「はぁ!? あんた、何言って……!」

「サンセ~。露骨すぎるよな、コイツ」


 カヅキが反論するよりも早く、ソラが口撃を仕掛ける。


「この空気で役職名乗り出たうえに、仕切ろうとする。ハイこれ怪しい。みんな、コイツを吊るそうぜ」

「サンセ~」

「さっさとヤッチマエ!」


 ソラの意見に乗り、殺意を向けるアカネとシン。反論する余地も与えず、彼らは「しーね!」「しーね!」と繰り返した。カヅキの顔から、さーっと血の気が引いていく。


「ね、ねぇ、待ってよ……。私、ホントに心眼だって……」


 ボーン……。


 最悪のタイミングで、鐘が鳴る。


【話し合いの時間が終了しました。これから投票に移ります】


 アナウンスの後、各々のプレイヤーの前に学年・組・名前が表示された。


【プレイヤーの皆さんは、てるてる坊主だと思う人物を指差し、表示されている名前を口にしてください。10秒以内にお願いします】


「みんな~、決まってるよな?」


 ソラが言う。


「もちろん!」「決まってるぞ!」


 反対する者はいない。――否、反論は許されない。抑圧された空気感の中、死にたくない一心で、誰もが彼女を指差した。


 ――――村田華月。


「ね……ねぇ、まってよ……。ほんとに私は……」


【投票先が確定しました。続いて、今日の天気を発表します】


 横向いた人差し指の先から、1枚のカードが出現する。くるりと裏返されたそれは――。


【今日の天気は、くもりです。それではご機嫌よう。村田華月さん】


「イヤ……イヤああああああああ!!」


 カヅキの身体は、天井高くに吊られていった。


 残り、7名……。









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