45話 仲直りしよう
今度は黒ヤギが紙飛行機を飛ばした。
前回と同じように、白ヤギは手紙を読まずに口に入れた。
数秒後、手紙は吐き出され、プレイヤーたちへと飛ばされた。
「何だこれ、絵?」
受け取ったプレイヤーは、首をかしげた。
「お前分かる?」
「分かんない……。なにこれ」
渡された女子児童も、首を傾げた。
「どれどれ、見せてごらん」
高橋が手紙を覗き込む。
すると、その表情をたちまち不快に変えた。
「これはきみたちには見せられないな」
「えー、なんで?」
不思議がる児童たちから手紙を取り上げ、集団から離れた場所で佇む桑原に突きつけた。
「これ持って白ヤギのところ行ってこい」
「は?」
「見ればわかるよ」
にっこりと笑う高橋は、有無を言わさぬ重圧を纏っていた。
桑原はしぶしぶ手紙を受け取ると、顔色を変えて白ヤギの方へ疾走した。
「おい、ふざけんなテメェくそヤギ! 何見せびらかしてんだ!」
顔を真っ赤にしながら、乱暴に手紙を突きつける桑原。
【メエェ】
白ヤギはわざとらしく鳴くと、むしゃむしゃと手紙を食べた。
「はぁ……はぁ……。ふざけんじゃないわよ……」
桑原は肩で呼吸をすると、よろよろともとの場所に戻っていった。
「せんせい、あの人どうしたの?」
「ん? 自分のした行動のせいで、ダメージを負ってるだけだよ」
淀みない眼差しで聞くソウタに、高橋は菩薩の笑みで答えた。
(ねこの時に感じた残忍さは、杞憂だったかな。おそらく、重度のスプラッター映画好きのドS女王様ってところか。いずれにせよ、子どもたちには悪影響だけど)
1年生の眼差しを眩しく感じながら、高橋は1人思うのだった。
――続いて、3問めの手紙が飛んできた。
描いてあったのは、実った稲穂と、荒れた空。
空には雷鳴が描かれ、その中心には太鼓を纏った神がいる。
「あ――」
すぐに正解を導いた高橋は、該当の児童に声をかけようとするが、止めた。
「ソウタ君。これを、あのみつあみの女の子に渡してくれるかな?」
高橋は、ソウタの手のひらに手紙を置くと、自分の手をぽん、と重ねた。
「わかった!行ってくる!」
ソウタは元気に返事すると、とてとてとホノカのほうへ走っていった。
「はい!」
「……?」
元気よく手紙を渡すソウタ。
ホノカはよく分かっておらず、首をかしげた。
「これ、きみのことが書いてあるんだって! だから、やぎさんのところにもってって!」
「ええっ!?」
びくん、とホノカの肩が跳ねる。
それはそうだ、命を賭けに行けと言っているのだから。
「なんで……? これ、ぜんぜんわたしじゃない! わたし、こんなにこわくないっっ」
「え、でも、たかはしせんせいが……」
「あのせんせいのことなんか信じないっ! クラスの中で、わたしだけが生きのこったから、わたしのこと、ころそうとしてるんだっっ」
「なんで、そんなこというの!」
カッとなったソウタが、手をあげる。
「こらー、だめだぞー」
すぐ傍にいたツヅルが、ソウタの手を掴んだ。
「だって、だってこの子がっっ!」
「たかはしせんせーは、悪いやつからおいら達を守ろうとしてるだけだぞ!」
「え……?」
ツヅルは手を離すと、にっこりと笑った。
「おいら聞いてたぞ。さっちゃんの時の紹介で、クラス全員を生き残らせたって。低学年でゆいいつ、たかはしせんせーのクラスが生き残ったって!」
「――――!」
ホノカが目を見開く。
「かごめかごめ」の時の高橋の姿が、脳裏に映し出された。
『大丈夫。せんせいに任せて。みんなで生き残ろうね』
ぐっとこぶしを作り、にっこりと笑ってそう言った高橋。
その笑顔に、その言葉に。
ひどく安心したのを、ホノカは思い出す。
「クラス全員皆ごろしにすんなら、はじめっからそうしてるよ! たかはしせんせーは、悪い大人じゃないぞ!」
ツヅルが屈託のない笑顔で言う。
しかし、高橋が「さっちゃん」を殺したのを目の当りにしたホノカは、信じ切れずにぶんぶんと首を振った。
「で……っ、でも、うらしまたろうで、みんな死んだ! たかはしせんせいを信じてたら、わたしも死んでたもん!」
「――それって、本当に高橋先生のせいなのかな?」
カヅキが2人のもとへやってきて言った。
「浦島太郎を選んだ人って、大多数だったじゃない? 高橋先生は、ちゃんと考えたうえで、2年4組のみんなを浦島太郎に連れて行ったんだと思うよ」
「でも、みんな死んじゃった!」
「高橋先生だって、かんぺきじゃないよ」
カヅキの言葉に、ホノカはきょとんと首をかしげた。
「そうなんだ。せんせいも、まちがえちゃうことがあるんだ。人間だからね」
高橋がやってきて、ホノカと視線を合わせた。
怯えるホノカに、高橋はやさしい笑みを向けた。
そして、手紙を差し出してみせた。
「これなんだけどね。空に描かれているのは、天神さまなんだ。そして、下には稲穂が描かれてる。天神と稲穂に関係する名前を持つのは――ホノカちゃん、キミしかいないんだ」
「――――」
ホノカはしばらくフリーズした後、口をもごもごとしながら俯いた。
「この、こわい、神さま……。わたしじゃ、なかったんだ……」
「うん、そうだよ。このゲームは、絵をよく見て、謎を解くゲームだからね」
「…………」
ホノカは沈黙したまま、絵を見つめている。
プレイヤーたちは、静かにその様子を見守った。
「……やぎさんのところ、行ってくれる?」
高橋が、やさしく問いかける。
ホノカは、少しためらったあと、こくん、と小さく頷いた。
『おめでとうございます。第3問、正解です』
アナウンスが鳴る。
プレイヤーたちに、喜びの輪が広がる。
「ありがとう、ホノカちゃん!」
頭を撫でながら、高橋は弾けるような笑顔で言う。
「うん!」
頷くホノカも、満面の笑みだった。
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