37話 桃太郎・GMは意外と甘い?
「頑張れ」――激励の言葉を反芻しながら、カヅキはふらりと立ち上がった。
目線の先には、木の上に立つ複数の児童。
極力下を見ないようにしながら、カヅキはおそるおそる足を踏み出した。
「――え?」
階段を1段下がったくらいの位置で、ふつうに地に足がつく感覚がした。
想像していた浮遊感は、一切ない。
もう一歩踏み出してみると、なるほど向かいの木にいた彼らの言う通り、透明な床があるかのようだった。
「す、すごい! 落ちない!」
いつもよりもはるかに高い目線。
宙を歩いているような不思議な感覚に感動しながら、カヅキは結界の上を歩き回った。
決して、下は見ないように努力しながら。
「これ、すごい! すごいよ!」
「ね~、すごいでしょ!?」
向かいの木の彼らも降りてきて、一緒に歩き回る。
吹く風が、とても心地よく感じられた。
【お~い、おぬしら、目的を忘れるでない! 遊んでないで、疾く「キジ」をくりあせよ!】
「ちぇ~」
「桃太郎のケチ~」
ぶつくさと言いながら、児童はすごすごと元いた木に戻っていった。
カヅキもまた自分のいた位置に戻ると、改めて向かいの木を見据えた。
(まだ、足が震える。高い所は怖いって、体が覚えちゃってるんだ。でも――)
後ろに下がり、クラウチングスタートの姿勢を取る。
「もう、怖くないっ!」
地面――もとい結界を強く蹴り、カヅキは向かいの木に飛び移った。
「やった!」
「おめでとう~!!」
飛び移った先で、カヅキは祝福を受けた。
ハイタッチをして、成功を喜び合った。
「ももたろ~! わたしも"サル"とれた~!!」
端の木から、幼い声が鳴る。
そこで、ホノカは賢明に「サル」の成功を桃太郎に告げていた。
【おぬしら、ようやった! それでは、おぬしは木の上へ。おぬしは「イヌ」の場所へと送ろう!】
宣言どおり、ホノカの身体は木の上へ。カヅキの身体は人魂の浮遊する場所へと転送された。
「わぁ。すんごい絵面」
すでに何人かの挑戦者が来ており、皆魂を咥えようと必死になっていた。
動くものを口で捕まえるというのは、相当難しいらしく、悪戦苦闘する様子が目立った。
「とりあえずやってみよ。あ~っ」
ものは試しと、カヅキは大口を開けて魂を咥えようとしたが、するんと逃げられてしまう。
すぐに別のものを捕えようとするも、それも簡単に逃げられてしまった。
「なにこれムズっ!?」
想像以上の難易度に、思わず叫ぶ。
ゆっくりに見える魂の動きが、捕獲困難なエモノに見えた。
「金魚すくいを思い出すなぁ。っえい!」
パクン、と咥えようとして、すり抜けられる。
「あ"~! 難しすぎ!」
【おい、そこ!!】
愚痴を吐いたその時、桃太郎の怒号が飛んできた。
【今、手を使おうとしたであろう! 拙者の説明を聞いておったのか貴様!】
「はっ……! 危なっ! サンキューももちゃん!」
指摘を受けた児童が、桃太郎に向けて叫んだ。
【もも……ちゃん?】
「あははははははは!」
困惑する桃太郎の横で、アオイが腹を抱えて笑った。
「わざわざ教えてあげるなんて……っ、やさしいんだね、桃太郎」
【何もおかしな事はありはせぬ。見ぬフリをしてやり直しを命ずるなど、外道のすることよ】
「ねぇ、桃太郎――」
デスゲームに加担している時点で、外道ではないのか。
その言葉を呑み込んで、アオイが言った。
「あなたは、何で……」
「おおおおおおおおお!!」
アオイの言葉は、魂を咥えて突っ込んできた男子によって遮られた。
【うむ、げえむくりあである。おめでとう。1位でごおるしたおぬしには、これをやろう】
桃太郎は、咥えられた魂を空へと放ち、腰に差したきびだんごを男子に渡した。
【くりあした者は、体育館にお送りいたす。「金太郎」が行われているだろうが、参加するのもよし、参加せずに安全をとるのもよし。好きに過ごすと良い】
「はーい。って、うめーーーーっ!!」
絶賛の声を最後に、男子は校庭から姿を消した。
数秒も経たずに、体育館に到着した男子だったが――そこに広がっていたのは、地獄のような光景だった。
体育館中に響き渡る耳を劈く悲鳴。
その声の主は――――金太郎だった。
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