第8話 別グループの場合
【1年1組のみんなー! 集まったかな~!?】
暗闇の中、てるてる坊主の声が鳴る。
集められたのは、1年1組の児童30名、そしてその担任1名の計31名。
「まっくらだよ!」
「こわいよぉ……」
「うぇええええええんっ」
まだ幼い子どもたちは、異常事態に怯えきっている。
「大丈夫よ。アイツの声を聞いちゃダメ」
中年の女性教師は、怖がる児童に寄り添いながら、言い聞かせる。
「松山せんせぇ、こわいぃ」
「うわあぁああああん!」
「よしよし……大丈夫よ」
女性教師――松山にしがみつく児童たち。
松山は、子どもたちをやさしく宥めた。
【くすくす。センセーも大変だね。自分だって怖いのに、それを押し殺して子守りをしなきゃいけないなんて】
てるてる坊主の声が笑う。
松山は、ギロッと虚空を睨み付けた。
「黙りなさい。あなたが何者なのかは知らないけど、命をこんな粗末に扱って……子どもたちをこんな目に遭わせて、絶対に許さないわよ!」
【強いねぇ。でも、どれだけ抵抗しても、キミたちはぼくの手のひらの上。いつでも殺せること、忘れないでね♪】
「ッ――――」
松山は悔しそうに歯を食いしばった。
「まだ1年生じゃ、まともに話は聞けないでしょ。だから、センセーにルールを聞いてもらうね」
てるてる坊主は、ルールを説明し始めた。
すべて説明を聞き終えた松山は、すくっと立ち上がった。
「――つまり、子どもたちに私を囲ってもらって、かごめかごめをやってもらえばいいのね。それで、私がうしろの正面を当てられれば、このふざけたゲームは終わると」
【そーいうこと♪】
「でも、この人数でどうやって当てろっていうの? 宝くじを引きにいくような調子で、子どもの命を弄ばなきゃいけないのかしら?」
【まさか。ちゃんと救済は用意してるよ。オニは回数制限つきで、ぼくにうしろの正面のヒントを聴くことができるよ。質問内容は、「はい」か「いいえ」で答えられるものに限るけどね】
「何度まで質問できるの?」
【通常は3回までなんだけど、キミたちは人数が多いからね。特別に、5回に増やすよ】
「そう……分かったわ」
松山は腰を落とし、子どもたちに視線を合わせると、口端に手を添えた。
「みんな~! 集合!」
頼れる大人の号令。
30人もの子どもの視線が、一か所に集められた。
「これから、みんなといっしょに、かごめかごめをしてあそぼうと思いま~す!」
明るい声色。
弾けるような笑顔。
子どもたちの表情が、比較的和らいだ。
「かごめかごめって、なんだっけ?」
「あれだよ! あれ!」
「あれじゃわかんないよ!」
――そうだ。子どもたちを怖がらせてはいけない。
その一心で、松山はつとめて笑顔で、明るい声で語りかける。
「おぼえてるかな~? むかし、やったことある人あると思うよ~!」
「あ! わたしおぼえてるよ! オニを決めて、みんなでかこむの! そして、歌うの! か~ごめか~ご~め~って!」
1人の女児が元気よく手をあげた。
「そう、そのとおり! 今からそれをやりましょう。先生がオニよ! みんな、私を囲って囲って!」
大きく身振り手振りをしながら、はしゃぐ声で子どもたちに呼びかける松山。
≪へぇ。よくやるね。でも、いつまで持つかな≫
てるてる坊主は、松山の気丈さを関心して眺めた。
「せんせーがオニだって!」
「いこいこ」
口々にそう言い、子どもたちは松山の周りに集っていく。
松山は、ズキズキと痛む心に蓋をした。
「せんせい」
これだけ人数がいれば、聡明な子どももいる。
クラスのうち何人かが、不安げな顔で松山を見つめていた。
松山はぐっと顔を歪ませると、彼らを強く抱きしめた。
「大丈夫よ」
ぐっと、腕に力が入る。
「先生、負けないから。輪の中にいきなさい」
そう言うと、子どもたちを離した。
彼らは不安そうにしながらも、しぶしぶと輪の中へと入って行った。
【それじゃ、先生に目隠しするね!】
しゅるしゅると、闇の中から謎の布が伸びる。
松山の視界を、完全な暗闇が覆い尽くした。
【それじゃ、ミュージックスタート! みんな回って回って!】
急かされるがまま、子どもたちは松山の周りを回り始めた。
かごめ かごめ
かごの中の鳥は
いつ いつ 出やる
夜明けの晩に
鶴と亀がすべった
うしろの正面だ~れ
――音楽が止まる。
質問という名の、子どもたちを生かすための決死の勝負が今、始まった。
松山は、ひとつ深呼吸をすると、質問を口にした。
「うしろの正面の出席番号は、1~10のどれか」
【いいえ】
「うしろの正面の性別は、女の子」
【はい】
(出席番号が11~30のうちの誰かで、かつ女の子か。一気に13人に減ったわね。ここから一気に絞り込むわ!)
――――。
【残念。ハズレだよ】
ブッブー、という効果音の直後。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
誰かの、悲鳴。
松山は、絶望に打ちひしがれた。
選択肢を3分の1まで減らせはしたが、当てることができなかったのだ。
「ア――――」
【さあ、2回戦! いってみよ~!】
絶望する間も、うしろの正面を知ることすらもないまま。
無慈悲にも、2度目の「かごめかごめ」が流された。
かごめ かごめ
かごの中の鳥は
「うわああああああああん!」
「あああああああああ!! ××ちゃああああああん!!」
無機質な歌声と、悲鳴の合唱が混ざり合う。
【ほらほら、休まない! 回って回って!】
いつ いつ 出やる
てるてる坊主の未知の力により、子どもたちの輪が強制的に動かされる。
自分の意思とは関係なしに動く体に、彼らの恐怖はさらに加速する。
夜明けの晩に
鶴と亀がすべった
「いやああああああああああああああああああああ!!」
「お"があ"さああ"ああああああん!!」
「ちょっと待ちなさい! 1度目のうしろの正面は――」
【教えてあげないよ】
うしろの正面だ~れ
【さぁ。質問タイムの時間だよ。5回まで、ぼくに質問してね】
「あ……」
回らない頭で、松山は必死に質問を考え出した。
……。
【残念、またハズレ!!】
ブッブーという効果音。
「ギャアアアアアアアアアアアア!!」
うしろの正面の断末魔。
かごめ かごめ
あああああああああああああん!!
かごの中の鳥は
うわああああああああ!! おうちに帰りたいよおおおおお!!
いつ イつ 出やル
「やめて……、もうやめて……」
頭を抱える。
おかしくなりそうだ。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!」
ハズレの効果音。
引き上げられる音。
断末魔。
カ~ごメ か。誤、メ――――
か ごノな 蚊の徒 り は
衣つ 井津 デヤ 留
よあ 毛ノ
bAん 二
××ト 〇△ 我 巣 ぇ ッタ
「ウフフフフ、ウフフフフフフ……」
減っていく悲鳴。
失われていく感情。
狂いゆく理性。
そして誰も、いなくなった。
……。
……。
はらり、と目隠しが外され、黒い帷があがっていく。
正気を失った彼女の目に映ったのは――――。
「あなたはだぁれ? ウフフフフフフフ。アハハハハハハハハハ!!」
ゲーム続行不可と判断された彼女は、天井高くに吊るされていった。
犠牲者
1年生118名、担任教師4名
2年生60名、担任教師2名
3年生90名、担任教師3名
4年生72名、担任教師3名
5年生70名
6年生85名 担任教師1名
計508名。 残り、217名……。
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