第23話 急襲のベルファ

 その女は、昨日オレを怒鳴り散らした危険人物のベルファだった。。


「うわ……ベルファのヤツが現れやがったぜ……」

「出ようぜ。あいつ見てると飯が不味くなる」


 他の冒険者たちはベルファの姿を見るなり、そそくさと裏の出口から出て行ってしまった。どうやら、相当嫌われているらしい。


「この国から出て行けとあれほど言ったのに、よくもまあヌケヌケとこんな所にまで現れるとは……本当に死にたいらしいわね」


 昨日の怒鳴り声とは違う静かなトーンだったが、昨日以上の怒気をはらんでいた。目つきもメチャクチャ鋭い。


「オレは何も悪い事はしていない。それはお前もわかっているハズだ」


 なだめてもムダだとは思った。だが、言うべき事は言わなければならない。


「黙れッ! 口答えするなッ!」


 ベルファの怒りに火がついた。持っている杖を勢いよく振り上げる!


「しまった!」


 オレは思わず叫んだ。ベルファが狙ったのは、オレじゃない。ユリカの方だ!


 ガツン!


 オレは咄嗟に、ユリカの前に出て彼女をかばい、ベルファが振り下ろした杖の直撃を頭に受けた。鈍い痛みが走った。 


「きゃああああーっ!」


 ユリカの悲鳴が部屋中に響き渡った。オレはユリカの悲鳴をかき消すくらいの大声でベルファを怒鳴りつけた。


「ユリカは関係ねえだろうが!」


 おそらく、ベルファはオレがユリカをかばう事まで計算していた……オレに対して確実にダメージを与えるために、敢えてユリカを狙ったんだ。


「うるさいうるさいうるさいッ! あたしの邪魔をするヤツは、どいつもこいつも消えて無くなれッ!」


 再び杖を振り上げるベルファだったが、オレは素早くその両腕をつかみ、体重をかけて押し倒した。もはや我慢の限界だ。


「上等だ、このアマ! この場で殺してやる!」

「クッ、おのれぇ……!」


 ベルファは、つかまれた腕を引き離そうとして抵抗する。女にしては、しっかりと腕の筋肉がついていた。

 ……だが、それでも異世界で強化されたオレの力の前では無駄な努力だった。


「やめてくださいッ!」


 再び部屋に怒声が響いた。見ると、受付嬢のライムが叫びながら目の前に飛び込んできた。


「やめてベルファさん! どうしてあなたは、いつも他の人にケンカを売ってばかりなんですか!? いい加減にしてください!」


 その瞳からは、今にも涙が溢れそうだった。その顔を見たオレが一瞬どうしたらいいか迷っていると、


「ナリユキさん、どうかこらえてください! ギルドのメンバー同士の争いは規則で禁じられています! このまま続けるなら、あなたとベルファさんの登録を抹消しますッ!」


 ライムは決然と言った。その瞬間、赤くなったライムの頬の上を一筋の涙が流れ落ちるのをオレは見た。


「……わかった。行こう、ユリカ」


 オレはベルファの腕を離し、ユリカの方を振り返った。彼女は、青ざめた表情のまま、押し黙っていた。


「ここで魔法を使うワケにはいかないからね。今回は大人しく帰るわ……でも、あんたは必ず殺してやる。あたしの魔法で氷漬けにして、粉々に砕いてあげるわ」


 ベルファは立ち上がってオレにだけ聞こえるくらいの小さな声で、しかしハッキリそう言った。

 この女とは、いつか決着をつけなければならない……たとえギルドの規則を破るとわかっていても。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る