第44話 エアリスの危険な誘惑

 オレたちは冒険者ギルドを出ると、作業を再開した。

 作業が何かって? エアリスとベルファの引越の手伝いだよ。

 朝一番、公衆浴場でひとっ風呂浴びた後、2人がそれぞれ住んでいる家から、手荷物をアジトまで運ぶ事になったのだ。

 オレはエアリスを、ユリカはベルファを手伝う事になった。

 エアリスも独り暮らしだった。3年前に、東の村の実家から1人で出てきて移り住んだらしい。行動力あるなあ。

 結論を言うと、エアリスの方は当たりだった。女の子だけど、ファッションとかに全く興味が無いので荷物が少ないのだ。

 さらに、アジトからの距離もエアリスの家の方が近かった。

 オレたちは早々に、エアリスの荷物を運び終えた。


「これで良し! じゃあ、ベルファの方を手伝いに行くか」


 オレはエアリスにベルファの家の場所を聞こうとしたのだが。


「ナ、ナリユキ! ちょっと待ってくれ!」


 エアリスが慌ててオレを止めた。何だろう?


「ボ、ボクの体をマッサージしてほしいんだ! 体のあちこちが、こってしまって……ちょうど時間ができたから、今ほぐしてくれ、頼む!」


 両手を合わせて頭を下げるエアリス。


「まあ、それぐらいなら別にいいけど。じゃ、そこにうつ伏せになってくれ」

「ありがとうナリユキ!」


 着ていた革製の鎧を外して、Tシャツと短パンだけになるエアリス。

 そして、床の上でうつ伏せになり、ポニーテールを両手で頭頂部に押さえつけた。


「首の後ろから、両手の親指でツボを押していって、背骨、両足、足の裏の順で頼むよ」

「そんなにやるのか!? そもそもオレは、体のツボなんて分からないぞ!?」

「ボクが気持ちいいって言ったところを、押してくれれば良いから」


 仕方がない。とりあえず、やってみよう。エアリスの上にまたがって、首の後ろから両手の親指で押していく。


「ああ、いい、そこ、そこ。ウマいよ、ナリユキ、ああ、いい、いい」


 恍惚とした声を上げるエアリス。何か、声が色っぽいんだけど。


「凄いよナリユキ! キミにはマッサージの才能があるよ! 毎日お願いしたいくらいだよ! ああ、いい、いい、気持ちいい」


 声だけ聴いたら、何か別の事をやっているみたいだ……いかんいかん、今は余計なことを考えないようにしよう。

 オレは、エアリスの背中まで終えて、足の方へ移った。こうして見ると胸は小さめだけど、お尻は大きい。足も筋肉がついていて、太めだった。そりゃ、素早い動きができるワケだ。


 まず左足から……と取りかかった時に異変が起きた。


 ブッ!


 あっ、この音は…………。


「すすす、すまないナリユキ!」


 エアリスが突然ガバッと起きて、オレの前に正座した。ああ、やっぱりオナラしたのか…………。


「決して悪気は無いんだ! あまりにも気持ちが良すぎて、つい…………本当にごめん!」


 エアリスは、瞳をウルウルさせて真っ赤になる……さらにお祈りのポーズ。

 何だよ、この子こんなにかわいかったっけ?


「いいよ別に。特にニオイもしてないみたいだし」


 オレの返答に、エアリスがホッとした表情を浮かべた。


「あ、あと、この事は誰にも言わないでくれ……恥ずかしいから」

「は? 別にオナラくらい、誰だってするだろ? どうでもいいよ」


 そう言えば昔、「アイドルはオナラもウンコもしない」って力説していたアイドルオタクの友人がいたなあ……オレから言わせれば、くだらない幻想だけど。


「だ、だって……未来の勇者が人前でオナラしたなんて言いふらされたら、恥ずかしくて外を歩けないよ…………」


 真っ赤になって俯くエアリス。そこは女の子だからじゃなくて、勇者だからなのか。まあツッコまないけど。かわいいし。


「わかったよエアリス。黙っておくから。約束するよ」


こんな純情な女の子を、わざわざイジメるほどオレも悪党じゃない。


「ありがとうナリユキ! お前は本当に最高だ!」


 いきなりガバッと飛びついて抱きしめてきたエアリス。む、胸が当たってるんだが…………いいのか?


 その後、無事にマッサージは終わったんだけど、理性を保つのに苦労したぜ…………オレって、自分で言うのも何だけどチョロいよな。チョロ松くんだよ!

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