第43話 ギルドマスターの登場

 緊急クエストに失敗した日の翌日の昼過ぎ、オレたち『チームナリユキ』の面々はライムに言われた通り、冒険者ギルドの受付に現れた。


「忙しいところ、すみませんナリユキさん。そちらのテーブル席でお話ししましょう。ギルドマスターも同席しますので」


と、ライムはテーブル席の奥を指差した。オレたちは言われた通りに移動する。


「げえ~。マスターも来るの? あたし、あのオヤジは嫌いなのよね。いちいち、うるさいから」


 ベルファが渋い顔をする。そういえば、オレはまだ会った事が無かった。どんな人だろ?

 オレたち4人とライムが席に着いたところで、ギルドの奥からいかつい体をした男がズカズカとこちらへ向かって来たのだが……その姿を見て仰天した。

 髪の毛が……無い! ツルッパゲだ!

 着ている服と合わせると、まるでお寺の和尚さんみたいだ!


「ナリユキ君。お初にお目にかかる。ギルドマスターのガルフだ!」


 男は、オレの目の前で野太い声を発した。声がデカい!


「よ、よろしくお願いします。リーダーのナリユキです」


 オレは、慌てて立ち上がって頭を下げた。怖えよ、この人。


「じゃあ、話をするか。忙しいから、手短にな!」


 ガルフはそう言って、ガタガタン! と大きな音を立てて席に着いた。

 いちいち豪快な男だな。オレも急いで座る。


「今回は、貴重な情報提供に感謝する! クエストに失敗したとは言え、巨大な剣を持ち帰った事も合わせると、それなりの成果を得たと言っていい。午前中に行われたギルド職員会議の結果、君たちには報酬の3割を与えようという事になった! 受け取ってくれ!」


 オレに向けて、ズズイと金貨の入った袋を差し出すガルフ。


「あ、ありがとうございます……」


 オレは両手で、うやうやしく受け取った。威圧されっぱなしだ。

 この人が戦ったら、魔王軍の四天王にも勝てそうな気がする。


「王室のエルディア姫には、ワシがこれから報告に行って来る。国王は腑抜けだが、あの姫は本当に頼もしいわ! ぐわっはっは!」


 ガルフは、そう言って豪快に笑った。周りを見ると女性陣は皆、苦笑の表情を浮かべていた…………ライムでさえも。


「まあ、姫様からの伝達があるかも知れんから、ギルドへは毎日立ち寄るようにしてくれ。頼んだぞ!」


 ガルフは話し終えると再び大きな音を立てて席を立ち、ズカズカと去って行った…………残ったオレたち全員は、思わず大きな溜め息を吐いた。


「なあ、ライム。ギルドマスターって、いつもあんな感じなのか?」

「はい。あれが、あの人の通常運転です。私も、働き始めた頃は苦労しました……あっ、これはあの人には内緒ですよ?」

「わかった、黙っとくよ」


 教育方針とか凄そうだな……そりゃ、こんなマジメな受付嬢になるワケだよ。思わず、納得してしまった。

 そして、ライムも受付へ戻って行ったところで。


「でへへへ。ナリユキく~ん♪」


 イヤらしい笑みを浮かべて、ユリカが両手を差し出してきた。

 言いたい事はわかってる。オレは無言でユリカの手の上に金貨の入った袋を置いてやった。


「ちょっと! 独り占めするんじゃないわよ! あたしにも寄越しなさい!」

「3人で1割ずつ分けるんだよ! ズルはダメだよ!」


 すぐさま、ユリカの両隣りにベルファとエアリスが寄って来る。まるで、獲物にたかるハイエナみたいだな…………オレは再び、溜め息を吐いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る