第100話 ダナシャスの変身
ユリカの正体を暴いたオレたちだが、まだそれで終わりではなかった。
ユリカの姿をしたダナシャスは、片膝をついて何かブツブツと呟き始めたのだ。
「みんな、距離を取って! 眠りの魔法よ!」
ベルファが叫び、オレと彼女はドアの方へ、レゼルブと2人の警備兵は窓側へ飛び退いた。そして、ベルファがダナシャスへ向かって杖をかざす。その杖は、真っ白に輝き始めた。
どうやら、今回は無詠唱で眠りの魔法を解除しているらしい。この姐さん、どこまで天才なんだ……!
「おい、ベルファ。なぜ、エアリスが本物だって、わかったんだ?」
オレは、彼女に尋ねる。
「あの子が出した作戦指示『フォーメーションB』って、あたしたち4人しか知らないハズでしょ? だから、彼女はダナシャスじゃない、本人だと確信したのよ」
「な、なるほど……確かに、そうだな……!」
オレは、ベルファの洞察力に感心してしまった。
しかし、エアリスはいいとして、本物のユリカは……!
「おい、ダナシャス! 本物のユリカは、どこにやった!? まさか、殺したんじゃないだろうな!?」
オレは、思いっきり叫んだ。意地汚い女だけど、やっぱり死んでほしくはない。
「フフフ、ベルファ君の推察通り、ユリカ君は眠らせて台所の物置に閉じ込めてあるよ。殺人は、私の主義に反するのでね……」
眠りの魔法の詠唱を止めて、不敵に笑うユリカ……じゃない、ダナシャス。依然として、姿や声はユリカのままだ。気色悪いこと、この上無い。
「それにしても、なぜ感電もしないであっさりと宝石を盗むことができたのかしら? ちょっと手際が良すぎるわよね?」
今度はベルファが疑問を口に出した。
「君たちは全く気付かなかっただろうが、私は事前にこの邸内の使用人や冒険者に変身して、ガラスケースの仕組みや君たちのことを調べていたのだよ。情報収集は、戦略の基本だからね」
やはり、怪盗を名乗るだけあって、かなりの知能犯のようだ。
ユリカの口調もマネできていたし、運が悪ければ彼女が金に意地汚いという点も知られていたかもしれない。
「さて、余興はここまでにして、そろそろ奥の手を使うとしようか」
ユリカの姿をしたダナシャスはそう言うと、またブツブツと呟き始めた。奥の手、だと……?
「この魔法の詠唱は初めて聞く……ま、まさか!?」
ベルファの顔に、焦りの表情が浮かんだ。
「その通り。私が開発した変身魔法だよ。この魔法を発動させるには、変身したい相手を抱きしめなければならないという厄介な条件があってね……だが、それもクリアできた」
意外といるんだ、こういうヤツ。自分の手の内をベラベラと喋って、悦に浸るようなイヤミなタイプが…………シェー! いやいや、ポーズは取らないぜ。
「しかし、相手を眠らせてしまえば、誰にでも変身できるってことだよな。とんでもないコンボだぜ……」
オレは身構えながらも、少し感心していた。
「そんな呑気なことを言っている場合じゃないでしょ! ダナシャスは情に訴えるためだけに、あんたに抱きついたんじゃないのよ!?」
隣にいるベルファが、ダナシャスを睨みながらもオレを怒鳴りつける。なぜ、そんなに怒っているんだ?
ベルファが言葉を発した直後、ユリカの姿をしていたダナシャスが真っ赤に輝いた! うわっ、眩しい……!
「上等だわ! 面白い趣向じゃない……!」
今度は、ベルファが不気味に笑った。そして、彼女の視線の先を見たオレは驚愕した。
「あ、ああっ! あれは……!」
その先に立っていたのは、間違いなくオレ自身だった。
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