第58話 口げんか
「ふ~やれやれ。とりあえずは宿屋へ戻るか」
国王との謁見をすませたオレは、王城の入口へ戻ると大きく伸びをした。偉い人の相手は、やっぱり緊張するぜ。
オレたち4人は、そのまま街の宿屋へつながる道を歩いて行く。
「それにしても、あの国王ってカッコ良かったね~♪ あんな感じの人って、すっごくタイプなの~。あの人と結婚して王妃になりたいかも」
ユリカがウットリした表情で絶賛する。チッ、尻の軽い女だな。
「ボクもあの人は好きだなあ。理想の上司って感じだよ」
「うちのダメ国王とチェンジしてほしいくらいだわ」
エアリスとベルファも口々にほめ称える。まったく、どいつも、こいつも……。面白くない気分になった。
「何だよ、あの国王のどこがイイんだよ!? ただ見た目がカッコいいだけじゃないか! あんなのと結婚して王妃になりたいとか、盛大な夢見てんじゃねえよ! 身の程をわきまえろ!」
オレは一番近くにいたユリカを怒鳴りつけた。しかし、ユリカは全く怯むことなく逆にオレを睨み返す。
「ナリユキ君? もしかして、自分が思いっきり点に向かってツバを吐いているのに気づいてないの?」
「えっ? どういうこと?」
困惑したオレに対して、ユリカはさらにツッコんできた。
「自分だって、エルディア姫に対してデレデレしてるじゃない! 私が気づいてないと思ったの!?」
「う、うう……」
完全に図星だ。オレの方こそ、エルディア姫と結婚したいなどと夢を思い描いていた。ユリカに対して、巨大なブーメランを投げていたのだ。返す言葉も無い。
「もういい! 私、先に宿屋へ帰るっ!」
ユリカは、そう言って走り出した。
「ちょっと待ってユリカ! たった一人で街を歩くのは危険だよ!」
エアリスが、素早く反応してユリカの後を追いかけた。女性が行方不明になる事件が頻発しているのだ。誘拐事件の可能性もあるし、女性の一人歩きは避けなければならないだろう。騎士のエアリスがついていれば、危険は避けられる……オレは思わず深い溜め息を吐いた。やれやれ…………。
「まあ、オレも言い過ぎてしまったな。後でユリカに謝らないといけないよなあ。どう思う? ベルファ…………」
オレは言いながら、後ろにいるベルファの方へ振り返ったのだが。
ベルファが…………そこにいたはずのベルファがいない。
まさか…………まさか?
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