第91話 レゼルブ邸内へ

 オレたちはレゼルブの邸宅の門まで来て、思わず息を呑んだ。

 とても立派な造りの豪邸だった。東京ドームくらいの広さがありそうで、邸宅の周囲は5メートルほどの高さの塀が並んでおり、その中央には4トントラックが楽々と出入りできるくらいの広大な門扉がそびえ立っていた。そして、塀の周囲には至るところで警備兵が2人1組で巡回していたのだ。


 門をくぐって、また驚いた。邸内のあちこちに、見張り用のたいまつが掲げられており、既に日が暮れているというのに、まるで昼間であるかのように明るく照らし出されていたのだ。

 敷地の中央には噴水があり、周囲には色とりどりの花が綺麗に咲き誇っていた……そして、その奥に壁を美しい白基調で塗り固められた大きな2階建ての建築物があった。これが一個人の住む家なのかと言いたくなるくらいの大きさと豪華さだった。


「すごいのね……レゼルブさんと結婚したら、こんな素敵な豪邸で贅沢な暮らしができるのね……ウフ、ウフフフフ……」


 ユリカがウットリとした表情で、周囲を見渡す。早くも趣旨を逸脱して、自分の世界へふけっている。今回、コイツを連れて来たのは、間違いだったか……?


「よくお越しくださいました。どうぞこちらへ。大広間でレゼルブ様がお待ちです」


 建物の玄関まで着くと、執事らしき男が出て来てオレたちを案内してくれた。しかし、人が多いなあ。『アリの子一匹入れない』という言葉がしっくりくるくらいの厳重な警備だ。

 執事に連れられて大広間へ入ると、そこではイケメンの宰相であるレゼルブ本人と2人の屈強そうな警備兵が立っていた。


「こんばんは、レゼルブさん」


 オレはレゼルブに対して頭を下げたのだが、彼はオレたちの姿を見て不快感をあらわにした。


「何だ、君たちは! 君たちはまだ、『竹』ランクの冒険者じゃないか! 私がギルドへ依頼したのは、『松』ランクの冒険者だぞ!」


 いきなり、大声で怒鳴られてしまった。そうか……この人も、オレたちがウェルゼナ王国で活躍したことを知らないはずだ。怒るのも無理はない。


「たかが『竹』の冒険者に、何ができる! 『松』とは違うのだよ、『松』とは!」


 そんな、ジオン軍のモビルスーツをディスるような言い方をしなくても……。


「ご安心ください、レゼルブ宰相。私は今日のために、睡眠魔法を解除するための魔法をマスターしてきました。私たちが眠りさえしなければ、ダナシャスの狙いは阻止できます」


 怒るレゼルブをなだめたのは、なんとベルファだった。この姐さんが、こんなに丁寧な口調で話すのは初めて見た。やはり、相手がウィザード崩れということで、かなりの対抗意識があるのだろう。それにしても、昨日の今日で新しい魔法を身につけてしまうとは、やっぱり天才なんだなあ……。


「まあいい。エルディア姫が目をかけているほどのパーティーだ。信用しよう。命に代えても、宝石を守り通してくれよ」


 レゼルブはそう言ってクルリときびすを返すと、スタスタと大広間の中央へ歩いて行く。

 その歩いて行く先に、あった。オレの腹の辺りまでの高さがある展示台と、その台の上に載っている七色に光る宝石が。

 宝石の周りは透明の四角いガラスケースで覆われていた。ガラスケースの大きさは、だいたい30センチ立方くらいだろうか。

 その中に鎮座している宝石『虹の雫』は、ガラスケースの底面に敷かれた絨毯のような黒い布の上で光り輝いていた。見る角度によって、赤く光ったり、青く光ったりとまるで虹のように色が変化する。たしかに、見ていて美しい。ただ1つ惜しい点を挙げるとすれば、宝石自体が駄菓子屋で売っているアメ玉くらいに小さいということだ。指輪にするには丁度いいかもしれない。

 オレは宝石を守るべく、台座の前へ立とうとした。しかし。


「ちょ、ちょっと待って、ナリユキ!」


 突然、エアリスから呼び止められる。かなり焦った感じの声だ。

 何だ!? 何か異変があったのか!?

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