第72話 切り札

「うりゃあああっ!」


 気合一閃、オレは『鉄子』を右手で振りかぶってゼグロンへ襲いかかった。エアリスとの修行の成果を見せてやるぜ!


「なっ!?」


 その瞬間、ゼグロンの目が大きく見開かれた。オレのスピードが予想以上に速かったからだろう。オレの攻撃は命中こそしなかったものの、ヤツの青いタキシードの袖を切り裂いた。ギリギリのところでかわされたが、これなら行ける!


「当たらなければ、どうということは無い!」


 ゼグロンは叫ぶが、声には明らかに動揺の色が混じっていた。敬語の口調も消えている。オレは思わず、ニヤリと笑った。裏を返せば、当たりさえすれば、どうにかなるという事に他ならない。

 オレはゼグロンへ向けて、次々と剣を繰り出した。ゼグロンは全てかわしていくが、国王と戦った時の華麗さは全くない。よけるのに必死で、魔法で反撃もしてこない。


「いくわよナリユキ!」


 背後からベルファの声が飛んできた。オレは一気に後方へ飛び退いた。


「炎よ、全てを燃やし尽くせ! ファイヤーボール!」


 同時にベルファが放った火球がゼグロンへ向かって一直線に飛んでいく。しかし、ゼグロンは動じない。


「ウオーターボール!」


 すぐさま右手をかざして水でできた球を作り上げ、ベルファの火球にぶつけて相殺させた。バンッという衝撃音とともに2つの球がかき消えて、真っ白い蒸気がモウモウと立ちのぼった……今だ!

 オレはポケットに忍ばせていた手裏剣を取り出して、フリスビーの要領でゼグロン目がけて投げつけた!


 ヒュンッ!


 風を切るような凄まじい音が響いた。おそらく、プロ野球のピッチャー以上のスピードが出ているハズだ。ゼグロンは手裏剣の存在には気づいたが、反応しようとした時には既にそれが胸元に突き刺さっていた。


「ぐっ…………!」


 痛みで思わず体勢を崩すゼグロン。チャンスだ!

 オレは、続けて2つめの手裏剣を投げつける。ゼグロンは、慌ててジャンプして回避したが、その着地する瞬間を狙ってオレは3つめの手裏剣を投げつけた……今度はヤツの腹に命中した。


「お、おのれ……!」


 ゼグロンは苦しみの表情を浮かべながらも、2つの手裏剣を引き抜いた。あと一歩だ!

 しかし、そのイイところで、王の間の扉がバーンと派手に開かれた。エアリスがウェルゼナ王国の衛兵たちを引き連れて現れたのだ。


「ふははははっ! 女勇者エアリス参上! 主役は遅れてやってくるのだよ!」


 大いばりで胸を張って名乗りを上げるエアリス。お前は、もう少し空気を読め!

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