第33話 暴走する秘密兵器

 オレは歯ぎしりしながら、ユリカを人質に取ったベルファを睨みつけた。悔しいが、仕方がない。


「わかった。宝はお前たちに譲る。だから、ユリカに手を出さないと約束しろ!」

「財宝をあたしたちが手にするまで、妙なマネをするんじゃないよ!?」


 再びベルファが叫ぶ。彼女が握るナイフは、ユリカの首元に食い込んでいる。血が出る寸前の状況だ。


「やめるんだベルファ! そんな卑怯な手を使うべきじゃない!」


 見かねたエアリスが止めようとする。彼女が持つ騎士道精神に反するのだろう。しかし、ベルファはそれを鼻で笑い飛ばした。


「甘いわよエアリス。勝ちさえできれば、手段は関係無いわ。勝つためには時として非情にならないと。その非情さが無いから、あんたは勇者になれないのよ!」

「違うッ!」


 エアリスは、うつむいて歯ぎしりした。そんな彼女をベルファが怒鳴りつける。


「いいから、さっさと箱から財宝を出すのよ! 早く!」



 エアリスは、なおも悔しそうな表情を浮かべながら、


「すまない、ナリユキ……」


とオレに頭を下げて、ヨロヨロと箱の前まで歩いて行った。


 そして、箱を開けて剣を取り出そうとしたのだが。


「あ、あれっ? 剣が取れない!?」


 様子がヘンだ。確か、剣は石像が握っていたハズ……。

 石像の手から、剣が離れないのか!?


「何やってるの!? いつまで待たせるのよ!?」


 苛立つベルファ。オレは気になって、そろそろと箱の方へと近づいて行った。箱の中身が見える、ちょうどその位置まで歩いたところで、異変が起きた。

 石像の両眼が突然、赤く光ったのだ。


「エアリス! そこから離れろ!」


 オレは咄嗟に叫んだ。本能でヤバいと感じた。

 その瞬間、ギギギッと不気味な音を立てて、石像が自ら動き出したのだ。そして、


「グアアアーッ!」


と地を這うような低い声で叫んだ。


「こ、これは……いったい……!?」


 目の前の信じられない出来事に、エアリスはボー然としている。

 巨大な石像はそのまま立ち上がり、オレの身長より長い剣を軽々と片手で振り上げた。


「危ない、エアリス!」


 オレはダッシュしてエアリスを突き飛ばした。そこへ石像の剣が振り下ろされ、オレの左肩をかすめた。くそッ、避けきれなかった……。


「ベルファ! ここは一時休戦だ! オレたち4人で協力して、この石像を倒すんだ!」


 今度はベルファへ向かって叫ぶ。ベルファは事態を把握したのか、既にユリカを解放していた。


「仕方がない。今だけは手を貸すわ。だけど、あいつを倒したら、次はあんたの番よ!」

「それでもいい! あの石像は、オレたち全員を殺す気だ! お前、相手を凍らせる魔法が使えるんだよな!? あの石像を凍らせてくれ、頼む!」


 そう叫ぶと、オレは石像へ向かって加速して、全体重をかけてドロップキックを食らわせる。衝撃で細かい石の破片が飛び散り、石像はあお向けに倒れた。

 正気に戻ったエアリスが、すかさず石像に飛びかかり、自らの剣を何度も振り下ろした。胸の部分に亀裂が入るが、粉々には砕けない。オレも石像の上に乗り、足蹴にを繰り返す。

 しかし、石像は何事も無かったかのように、むくりと起き上がった。

 オレとエアリスは後方に飛び退いて、石像と距離を取った。

 その時、オレの背中から凄まじい冷気が発せられるのを感じた。同時にベルファの声が響く。


「待たせたわね……魔法が完成したわ」


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