第93話 謝るユリカ

 バ、バカな!? いつの間に!?

 オレは展示台の上を見つめたが、確かにたった今まで存在していたハズの宝石が消えている。

 しかし、原因はすぐに判明した。


「こ、これは見事な宝石なのね……安く見積もっても、50万エルドの価値はある……ウフ、ウフフフフ……」


 ユリカがしゃがみ込んで宝石を右手でつまみ、どこから持ってきたのか、虫眼鏡でジロジロと眺めていたのだ。


「何やってんのよ、バカ!」


 パッカーン!


 ベルファが、ユリカの頭へ思いっきり自分の杖を振り下ろした!

 大広間の中で、激しい打撃音が響き渡った。


「ううう……ベルファ、痛いのね……」


 その場でバッタリ倒れ込み、左手で頭の上を押さえるユリカ。

 しかし、反対側の右手では、しっかりと宝石をつまんだままだった……あれだけの衝撃と痛みを受けても、宝石から決して手を離さない点だけは特筆に値する。さすが、金に意地汚い女子だ。

 ベルファは、その手から素早く宝石を取り上げて叫んだ。


「まったく! あたしは、怪盗ダナシャスよりもあんたの性格の方が怖いわよ!」


 そして、展示台の上に宝石を戻すとレゼルブに向かって「申し訳ありませんでした」と深々とお辞儀した。オレも、慌てて一緒に頭を下げる。同じパーティーである以上、こういうのは連帯責任だ。電撃を浴びせられた件はムカつくけど、ここは仕方ないね……。


「ふざけるんじゃない! もし盗まれたら、タダでは済まさんぞ!?」


 ヤバい。レゼルブの怒りの沸点が近い。これ以上、怒らせないようにしないと……。


「ユリカ! お前もお詫びしろ!」


 無理やりユリカの頭をつかんで、頭を下げさせる。


「うう……ごめんなさいなのね……」


 ユリカは、か細い声でレゼルブに謝った。オレは、彼女へ尋ねる。


「少しは反省しろよ……なぜ、こんなバカなことをしたんだ。依頼を成功させても、宝石がお前の物になる訳じゃないのに」

「あまりにも綺麗な宝石だったから、つい鑑定してみたくなったのね」


 オレは、ユリカの返答が納得できずに、思わず大声で叫んだ。


「お前みたいなシロウトに、宝石の鑑定なんかできる訳が無いだろ! 注目の鑑定は、CMの後ォーッ!」


 し、しまった……。ツッコむつもりが、逆にボケ倒してしまった……。

 室内の空気が固まってしまった……非常に気まずい……。


「ナ、ナリユキ……? いったい、『しーえむ』って何なのよ……?」


 冷たい声だけど、ベルファがツッコんでくれた……ありがとう……。


 それにしても、エアリスはなかなか戻って来ないな……何事も無ければいいのだが……。

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