第94話 3通りの結末

 オレの不安をよそに、エアリスはスッキリした顔で大広間へ戻って来た。


「ただいま、ナリユキ。もう大丈夫だよ」


 さりげなく、ニコッと笑顔を見せるエアリス。ちょっとかわいい。


「トイレにしては、ちょっと長かったんじゃないのか? もう少し……ぐはっ!?」


 エアリスに説教しようとしたオレを遮るように、ベルファがオレの脳天へ杖を振り下ろしたのだった。


「ベルファ! 何するんだよ! 結構、痛かったぞ!?」


 オレはムッとして、ベルファにつかみかかろうとしたのだが、彼女はキッパリとこう言った。


「ナリユキ! 女の子のトイレの時間を責めるなんて、あんたはちょっとデリカシー無さすぎよ!」


 ビシイッ! と杖の先端をオレに突きつけてくる。


「そ、そうなのか……エアリス、ごめん……」


 ま、まあ、言われてみるとそうだよな……それにしても、今日のベルファはツッコミが冴え渡っているな……。

 そして、オレ、ユリカ、エアリス、ベルファの4名は、宝石の入ったガラスケースのそれぞれの面に背を向けるようにして立った。ちなみに、オレは入口の扉を見るようにして立ち、ガラスケースを挟んだ対面にはエアリスが外に接する窓を見るようにして立っている。ダナシャスがドアから入って来ても、窓の外から入って来ても、すぐに格闘戦で対応できる位置取りにしたのだ。

 レゼルブは、オレたちから5メートルほど離れた場所で、2人の警備兵を両わきに従えて立っている。警備兵はどちらかと言えば、宝石よりもレゼルブ本人を守る感じだ。追い詰められたダナシャスが、レゼルブを人質に取らないとも限らない。

 オレは腕組みをしながら、今回の任務の結末について考えていた。

 考えうる結末は、大きく分けて3通りある。


 まず1つ目は、ダナシャスが宝石を奪いに来たところを、オレたち全員が捕まえて警備へ突き出すことだ。その後の犯行の再発も無くなるので、最良の結末であることは間違いない。


 2つ目は、オレたちのガードに対してダナシャスが音を上げて、宝石を奪いに来るのを断念することだ。ダナシャスを捕まえることはできなくとも、冒険者ギルドの面目は保たれるし、ヤツの鼻っ柱をへし折ることはできる。オレたちとしては、最悪でもこの結末へ導かなければならない。


 そして3つ目は、言うまでもない。ダナシャスによって、宝石が奪われてしまう本当に最悪の結末だ。冒険者ギルドの信用も失墜し、オレたちの立場も危うくなる。この結末だけは、何としても避けないといけない。


 オレは、腕時計を見た。既に10時近くになっていた。犯行予定時刻まで、あと1時間ちょっとか……。


「少し、のどが渇いたな……」


 レゼルブが呟いた。今夜は、割と空気が乾燥している。正直な話、オレものどが渇いていた。


「メイドや執事は既に就寝しているんでしょ? ユリカ、あんたが台所へ行って紅茶でも入れてきなさい。7人分よ。あんたは、むしろ足手まといなんだから」


 ベルファがユリカへ向かって、突き放すように言った。ユリカは既に前科があるから、オレもフォローできない。彼女に行ってもらおう。

 ユリカは「ぶー!」と頬をふくらませながらも、レゼルブに尋ねる。


「台所は、どこにあるの?」

「台所は、ドアを出た先の通路を右に曲がってまっすぐに行った突き当たりだ。すぐ近くだから、迷うことは無いだろう。気をつけて行きたまえ」


 レゼルブの説明を受けて、ユリカは大広間を出て行った。

 しかし、その後すぐに異変は起こった。


「きゃあああ! かっ、怪盗ダナシャスが現れたのね!」


 廊下にユリカの悲鳴が響き渡った。

 ついに現れたか! 全力で捕まえてやる!

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