第60話 手がかり

 ベルファがオレたちに身の上話をしてくれた時に、彼女はたしかこのように言っていた……。

 彼女の体内には大量の魔力が蓄積されていて、その魔力を感知したウィザードに拾われて、その人の弟子になったと…………ならば、高名なウィザードか賢者といった魔法の才能と実力を持った人物がいれば、彼女の居場所を探り当てられるという事だ。

 残念ながら、そういう知り合いはオレにはいない。だが、1人だけ魔法を使える者はいる……ユリカだ。彼女なら、ベルファの魔力を感知できるかもしれない。今は、彼女に頼むしかない!


「この通りだユリカ! 協力してくれ! ベルファの魔力を感知してくれ!」


 オレはユリカに事情を話して土下座した。なりふり構ってはいられない。


「う~ん……やってみるけど、ベルファじゃない人に当たるかもしれないよ? 上手くいくかどうか、わからないよ? ダメだったとしても、怒らない?」

「怒らない! 約束する! お前にも酷い事を言ってしまって、本当にごめん!」


 オレは再び頭を下げた。彼女に許してもらいたいという思いもあった。


「わかった……やってみる。だけど、かなり集中力を使うと思うの。今日はゆっくり休んで、明日の朝がんばってみるから。それと、昼間に言われた事はもう気にしてないから……ナリユキ君が謝ってくれたし」

「ありがとう、ユリカ…………」


 ユリカの心遣いに感謝した。思わず、涙が出そうになった。


「じゃあ、明日は頼むよユリカ。ナリユキも明日に備えて、しっかり休んでくれ。ボクも、できる限りの事はするから」


 エアリスが、最後にそう締めくくった。


 翌朝、オレたち3人はベルファが行方不明になった地点にいた。

 ユリカが何やら呪文を唱えながら右手をかざす。その手は白く光り輝き始めた。


「こっちに強大な魔力を感じる……この先から……」


 ユリカは、ゆっくりと歩き始めた。オレとエアリスは、黙って彼女の後ろへついていく。

 途中、魔力が感知しにくくなるのか、ユリカは何度も立ち止まった。気になって彼女の顔を覗くと、眉間にしわをよせて額から汗をかき始めていた。彼女にしては珍しい、真剣な表情だ。


「こっち……こっちから…………」


 ユリカは、再び歩き始めた。ゆっくりと、ゆっくりと……魔力の感触を確かめるかのように…………。


「たぶん、ここから…………」


 そして、ユリカは大きな建物の前で立ち止まった。どうやら、酒場のようだ。午前中なので、まだ開店していない。


「よくやったな、ユリカ。夕方、店が開いたら客として乗り込もう。店の中で、ベルファの正確な位置をつかむんだ。それまで休んでくれ」


 オレはそう言って、ユリカの肩を平手でポンと叩いた。ユリカは、黙ってうなずいた。

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