第104話

「その水の球は、ただの染料よ。どちらが本物か、マーキングするためのね」


 ベルファは、自分の腰に手を当てて2人のナリユキに説明した。

 1人のナリユキの服には赤い染料、もう1人のナリユキの服には緑の染料が染み込んでいる。なるほど、考えたね……。

 ボクは、ちょっとだけ感心した。後は、どちらのナリユキが本物かテストするだけだ。身体検査して宝石を探す手もあるけど、宝石が小さいから最悪ダナシャスが飲み込んでしまっている可能性も否めない。

 そこで、ボクは一計を案じた。女勇者エアリスの、知恵の見せどころだね!


「ナリユキたち、よく聞いて! 今からボクが質問するから、それに答えて! 本物だったら、答えられるはずだよ!」


 ボクは2人のナリユキに向かって叫んだ。ナリユキたちは、お互いに顔を見合わせる。さあ、行くよ!


「ボク、ユリカ、ベルファの中で、誰が一番好きかを答えるんだ! 簡単でしょ?」

「ええええ……?」


 ボクの出した質問に対して、2人のナリユキは困った表情をした。

 この質問に対して、「エアリス、お前だよ!」と答えてくれた方が本物のナリユキだというワケなのさ。なぜなら、ボクは3人の中でナリユキに対して一番優しく接しているからね! 乱暴者のベルファを選ぶなんて、論外だよ。ベルファを選んだ時点で、ニセモノ確定だ。


 問題は……ボクはチラッとユリカの方を見た。彼女もボクの方に視線を飛ばしてくる。コイツは、ボクと違って胸が大きいからなあ……もしかしたら、密かにナリユキをたらし込んでいるかもしれない。


「さあ! 答えるんだ、ナリユキたち!」

「そ、そんな! 3人の中から1人を選ぶなんて、オレにはできないよ!」


 ボクが問い詰めると、赤い方のナリユキが少し怯えた様子で叫んだ。

 むむむ……優柔不断なヤツめ……。

 でも、コイツが本物って感じもするなあ……彼の性格的に……。

 だけど、緑の方のナリユキは全く予想外の答えを返してきた。


「何を言っているんだ! オレが今までさんざん苦労してきたのは、エルディア姫と付き合いたいからなんだよ! お前たちからなんか、選べるか!」


 ……その回答を聞いた瞬間、ボク、ユリカ、ベルファの3人はお互いに顔を見合わせ……そして頷いた。


「サンダーフレア!」

「ぐぎゃああああ!?」


 赤いナリユキにベルファの電撃魔法が炸裂し、彼はバッタリと地面に倒れ伏した。そして、気を失ったことにより、変身魔法の効力が解けてスーツとマントを身に着けた中年の男の姿へと変わっていった。コイツが、怪盗ダナシャスだったのだ。


「いやあ~、危なかったぜ。もし、本物のオレが倒されたらと思うと、ヒヤヒヤしたよ」


 緑のナリユキは、そう言ってボクたちに笑顔を向けた。だけど、ボクたちの怒りはまだおさまってはいなかった。


「サンダーフレア!」

「ぐぎゃああああ!?」


 ベルファの電撃魔法が緑のナリユキに命中し、彼も地面に倒れ込んだ。


「ちょ、ちょっと待って! オレ、本物だよ!? オレ、本物おおお!」


 必死に起き上がって弁解しようとする緑のナリユキ。しかし、そんな彼をベルファは足でゲシゲシと踏みつけた。


「お前たち『なんか』とは何よ! この! 奴隷の分際で!」


 ベルファはナリユキを罵りながら、さらに攻撃を続ける。


「ホントに頭に来ちゃうのね! えいっ、えいっ!」

「少しは反省しろ! このやろ、このやろっ!」


 ユリカとボクも加わって、3人がかりでナリユキの体をゲシゲシと踏みつけていった。


「痛い痛い痛い! やめて、やめてええええ!」


 ナリユキの悲鳴は、さらに大きくなった。


「え……あ……怪盗を仕留めたのに、いったい何をやっているんだ、君たちは……」


 レゼルブ宰相が止めに入るまで、ボクたち3人の攻撃は延々と続いたのだった。口は災いのもとだね!


 こうして怪盗ダナシャスは逮捕され、盗まれた宝石『虹の雫』はレゼルブ宰相の手に戻って来たのだった。やったね!

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