第71話 壊れるユリカ

「稲妻よ走れ! サンダーフレア!」


 国王の攻撃を後方に飛び退いてかわしたゼグロンが、前方へ右手をかざして叫んだ。その途端、その手のひらから青白い光が生まれて、国王の剣へ向かってほとばしった!

 眩しくて目がくらむ……おそらく電撃の魔法だろう。


「ぐあっ!?」


 その衝撃をまともに受けて、国王の手から剣が勢いよく弾かれて、床に大きな金属音を立てて転がり落ちた。


「ぐう……おのれ……!」


 国王は、剣を落としてしまった右手を自らの左手で押さえた。電気の影響で、右手が痺れたのかもしれない。その隙を突いて、ゼグロンが一気に国王のそばへ詰め寄った。


「さあ、話してもらいますよ。あなたが所持している聖剣は、どこに保管しているのですか?」


 ゼグロンは国王の胸ぐらをつかんで、彼の顔を自分の目の前へ近づける。せ、聖剣だって!? そんな伝説の武器が、この城のどこかにあるのか!? 全然知らなかったぞ、そんな事!


「だ、誰が貴様などに……死んでも話すものか……!」


 国王は絶体絶命の状態でありながら、逆にゼグロンを睨みつけた。死をも恐れないとは、凄まじい精神力だ。そんな真剣な場面だというのに。


「きゃあ♪ イケメン2人の顔がすごく近いの~♪ うふっ、ウフフフ腐腐腐♪」


 オレとベルファの隣で、ユリカは不気味に笑いながら、ヨダレを垂らしていた……バッチイよ! お前は腐女子か!?


「国王! 助太刀します!」


 オレは、背中に手を伸ばし、名刀『鉄子』を引き抜いた。


「いけませんね……人質がいる事をお忘れなく」


 ゼグロンはオレへ眼鏡越しに視線を向けて、ウインクして見せる。それを見たユリカは、喜びの悲鳴をあげた。さすがに、ベルファもユリカを白い目で睨んでいる……そりゃそうだよね

 しかし、これではゼグロンに手が出せない。どうしたものかと思い悩んでいたら、とんでもない事が起こった。

 ゼグロンが、国王の唇にゆっくりと自分の唇を重ねたのだ。


「えええ~っ!?」


 驚愕したオレとベルファの声がハモった。どういうつもりだ!?

 しかも、国王は抵抗せずに目をつぶってしまったぞ!?


「きゃ~♪ 王子様と王子様のラブシーンが見られるなんて、大感激なの~♪」


 ユリカだけが、跳び上がって大歓喜していた……ダメだ、もうさすがにツッコめない。ゼグロンは国王を部屋の隅へ放り投げて言った。


「ふっ……強情な国王には眠ってもらいましたよ。深い眠りを与えるには、この方法が一番なのでね。この国を滅ぼして聖剣を手に入れる前に、まずはあなたたちに眠ってもらいます……ただし、二度と目覚める事のない永遠の眠りにね……」


 口角を上げながら舌なめずりをするゼグロン。深い眠り? 本当にそうなのか? 単にお前自身の趣味じゃないのか? ツッコんでやりたかったが、とてもそんな状況じゃなかった。

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