第53話 地下の開発室
「それでは、3日後の16時に親書を取りに伺います」
打ち合わせを終えたオレたち一行は、席を立ち上がった。
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
お礼を言うエルディア姫。彼女はこの後、部屋に残って仕事を再開するらしい。本当に、頭が下がる思いだ。
さて、この後はどうしようか?
「そうだな……明日の午後は、国王と会う約束ができてしまったから、今のうちにクライゼの店を訪問しておくか」
というワケで、オレたちはそのままクライゼの店へ向かった。
「あたしは、店には入らないわよ。外で待ってる。あの店主って、キモいんだもの」
ベルファは、クライゼの事が嫌いらしい。まあ、典型的なオタクっぽい感じだし、生理的に受け付けないのかも知れない。
店に着くと、オレはユリカとエアリスを連れて中に入った。
「あっ、ナリユキさん。エルディア姫からは、話を伺っています。よくお越しくださいました」
クライゼはオレの姿を見つけると、すぐに奥のカウンターから出てて頭を下げた。
「オレ専用の武器を作っているって聞いたから、受け取りに来たんだよ。どんなのがあるの?」
「実は、この店の地下に開発室があるんですよ。今からご案内します」
オレたちは、クライゼに連れられて店の地下にある部屋へ入った。部屋の中は真っ暗だったが、クライゼは慣れた手つきで室内に明かりを灯していく。
「200年前に暗躍していた伝説の忍者が使っていた物と同じように再現するのに、苦労したんですよ」
クライゼはそう言って、小さな箱を取り出した。オレは、その箱のふたを開けてビックリした。
「こ、これは……手裏剣?」
鉄製で十文字の形を成しているそれは、まさしく手裏剣だった。3枚入っている。
「まだ試作品の段階ですが、型さえしっかり作り込めば、そのうち10枚や20枚は量産できるようになりますよ」
クライゼは、そう言ってニヤリと笑う。
もし、この低重力の状況でオレがコレを本気で投げれば、プロ野球のピッチャーくらいのスピードは出せるだろう。一発でも当たれば、かなりのダメージになりそうだ。
「それから、コレですね」
クライゼは、別の箱を取り出した。
開けると、2つの玉が入っていた。オレの拳より一回り大きい。
玉は陶器でできていて、プレゼントを包むかのように十文字で縄が括り付けられていた……テレビの時代劇で見た事がある。
「これは……焙烙玉! 手榴弾だ!」
「ほうろくだま? ナリユキ知ってるの?」
エアリスが首を傾げる。知らないのも無理はない。
「この玉の先っぽに火をつけて投げる武器、爆弾だよ! 破裂したら、大爆発を起こして周りを吹っ飛ばすんだ!」
「そんな武器が……凄いね……!」
エアリスが驚嘆の声を上げる。一方、ユリカは黙っていた……炸裂した時のイメージが上手く湧かないのかも知れないな。
しかし、オレはしっかりイメージできていた。高校生活のキャンプ中に異世界転移したので、ライターは持っている。わざわざベルファの炎の魔法を使う必要も無い。この焙烙玉は、使えるぞ!
「ちなみに導火線が赤い方が爆弾で、青い方が煙幕弾です。こちらもまだ1個ずつしか作っていませんが、日数をかければもっと用意できますよ」
クライゼが解説しながら、更にもう一つの箱を取り出した。ふたを開けると、黒い服が折り畳まれていた。こ、これは……!
「忍び装束です。近くの服屋で仕立ててもらいました。夜に活動する時に便利でしょう」
「す、凄いよ! よくこんなにいろいろと用意できたね!?」
数々の忍者グッズを目の当たりにして、オレは興奮していた。
「いえ、私は忍者ハチベエの子孫で、先祖代々これらの品を作る技術を受け継いできていたのです。しかし、これらを十分に使いこなせる人は現れませんでした。ですが、10日ほど前に姫の使者が突然現れて、ナリユキさんが伝説の忍者だとおっしゃる。思わず嬉しくて、手を尽くした次第ですよ。この技術を受け継いだのは、無駄じゃありませんでした」
その気持ちはとてもありがたかったが…………同時に不安も生まれた。
「でも、これだけ作るのに相当なお金がかかってますよね? これら一式を買うのに、どれぐらいのお金が必要なんですか?」
思わず敬語で質問してしまったオレに、クライゼは首を振って答えた。
「いえ、エルディア姫から援助金を受け取っているので、お代は一切いただきません。その代わり、一つだけお願いしたい事があるんですよ。デュフ、デュフフフフ…………」
クライゼは突然、不気味に笑い始めた…………その笑い方、怖いよ!
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