第52話 恥ずかしがるお姫様

 オレがエルディア姫の部屋に戻ると、姫様とユリカたちは楽しそうに紅茶を飲んで席に座っていた。まるで女子会だ。

 ユリカが大きく手を振って、声をかけてくる。


「あっ! ナリユキ君、おかえり~♪」


「ナリユキさん、ごめんなさい。刀は私が預かっておくべきでしたね。父は刀を取り上げようとしたのではないですか?」


 エルディア姫は、すまなそうな表情で頭を下げた。その気遣いと洞察力……さすが一国を治めるお姫様だ。


「いえ、大丈夫です。明日、国王に代わりの物を差し上げますので」


「そうですか……でも、それはナリユキさんにとって大事な物なのではないですか?」


 姫様は、なおも心配してくれる。本当にいい人だ。


「まあ、今のオレが使う事も無いので、ノープロブレムです。それに、あの品をお渡しすれば、たぶん国王もカジノやフィギュア集めに興じる事も無くなりますよ」


 ホッと胸をなでおろす姫様。一つ一つの仕種が、とてもかわいらしい。


「ああ、趣味と言えば……」


 オレは、一つ思い出した。


「確か、姫様は絵を描くのが趣味だとか。国王に聞きましたよ」


 それを聞いた途端、姫様の肩がビクン! と動いた。


「ま、まあ時間がなかなか取れないので、あまり描かないのですが……」

「え~っ? エルディア姫って絵を描くの? 見てみたい!」


 少し困った表情の姫様に対して、ユリカが食いついた。


「オレの似顔絵も描いたって聞きましたよ。とてもお上手なのでは?」


 オレは素朴な疑問を投げたつもりだったが、姫様は悩んでいるようだ。


「わ、わかりました。ちょっと待っててくださいね?」


 姫様は意を決したように立ち上がると、そそくさと部屋を出て行った。

 しばらくすると、姫様は両手にキャンバスを抱えて戻って来た。どうやら、2枚あるっぽい。


「あまり上手くはないですけど…………どうぞ…………」


 姫様はそのうちの1枚をオレへ差し出した。同時にユリカたちもオレの横へ回り込む。さ、3人同時に来るな! 狭いよ!


「こ、これは…………!」


 オレは、その絵を見た途端、吸い込まれるような感覚に陥った。風景画だ。雪が上の方で積もっている山々と、その手前に広がる湖と森林。鮮やかな色使いで、とても綺麗な作品だった。見ているだけで、心が洗われるようだ……。


「すごい……! プロの画家になれるんじゃないですか? 美しいですよ!」


 オレは率直に感想を述べた。他3名も、口々に絶賛している。


「よかった……そんなに褒めてもらえると思わなかったので、嬉しいです」


 姫様は本当に嬉しそうだった。頬をほんのり赤く染めて……実にかわいらしい。


「じゃあ、もう一枚がナリユキ君を描いた絵なのね? そっちも見たいの♪」


 ユリカが、姫様に向かって手を差し出した。コイツは本当に遠慮が無いな。

 姫様は困惑気味にもう1枚の絵をユリカに渡す。そのユリカへ飛びつくように、エアリスとベルファが身を乗り出した。こらこら、オレが見れないんだけど?


「ええ~っ!?」


 何と、3人同時に驚きの声を発した。オレも慌てて絵を除く。


「ちょっと何これ!? このナリユキ君、カッコよすぎるんだけど!?」

「こんなのナリユキじゃない! ボクの方がカッコいいもん!」

「おかしいわよコレ…………実物を美化しすぎよね…………」


 ユリカ、エアリス、ベルファの順でブーイングが暴発してしまった…………。

 そうかな? オレは実物そっくりに上手く描けていると思うんだけど?


「す、すみません・・・・・・・」


 エルディア姫は、真っ赤になって俯いてしまった。何も悪くないのに……。

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