第50話 鉄子の部屋

 それは、細長い……日本刀だった…………。


「200年前、伝説の忍者ハチベエが使っていた刀です。観賞用として父の部屋に飾ってあった物ですが、昨日私が取り上げました」


 エルディア姫は淡々と話した。実の父親である国王から宝を取り上げるとは……やっぱりこの姫様強いわ。


「こ、これをオレにくださるのですか?」

「そうです。素手でいつまでも戦う訳にはいかないでしょう?」


 エルディア姫はそう言って、優しい笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。大事に使わせてもらいます!」


 オレは刀を受け取って、ハタと気付いた。刀の柄の部分に何かが彫ってある……? これは文字か……?

 その文字を見て仰天した。これは漢字だ! しかも書いてある文字は……。


『鉄子』


 刀に名前をつけるのはいいけど、『虎徹』ではなく『鉄子』とは……こんな鉄道オタク女子みたいな名前をわざわざつけやがって……! 八兵衛、いい加減にしろ!


「へえ、立派な刀だね!」 


 騎士という職業柄か、興味を示してくるエアリスだったが、オレはちょっとガッカリしていた。


「それから、ナリユキさん? クライゼという商人を知っていますか?」


 そこで姫様はオレに尋ねてきた……あ、思い出した。

 ユリカやエアリスそっくりのフィギュアを作っていた道具屋だ!


「一度だけ会った事がありますが、あの男が何か?」

「彼にはいろいろな武器を作る才能があります。私は、彼にナリユキさん専用の武器を作るように依頼しておきました。王都を出発する前に、一度彼のお店へ立ち寄ってください」

「わ、わかりました…………」


 まあ、あんな精巧なフィギュアが作れるのなら、いろいろな道具を作れそうな気はする。明日にでも立ち寄ってみよう……そう思っていたところへ。


 コンコンコン


 ドアがノックされて、1人の貴族が入って来た……ああ、昨日カジノで会った参謀のターバルだ。


「姫。お話し中のところ、申し訳ありません。陛下がナリユキ氏と2人で話をしたいとおっしゃっていまして、しばしの間、ナリユキ氏をお連れしたいのですが」


 ターバルは、そう言って頭を下げた。


「父上が? そうですか……仕方ありませんね」


 姫様は軽く溜め息を吐くと、オレに頭を下げた。


「すみません、ナリユキさん。私たちはこの部屋でお待ちしていますので、父上とお会いしてください」

「わ、わかりました……」


 オレは、ターバルに連れられて部屋を出た。な、何て事だ……姫様とではなく、その父親と一対一で話すことになろうとは……。

 だが、『将を射んと欲すれば、まず馬を射よ』という諺もある。国王に気に入られておけば、エルディア姫に近づくチャンスが増える可能性もあるのだ!


 オレは、心の中で炎を燃やした。野望の炎を。

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