第18話 自称勇者は痛いです
エルディア姫との会話が一段落したところで、オレは女神フェリオに言われた話を思い出した。ちょうどいい、今聞いておこう。
「エルディア姫。オレはフェリオ様から魔王を倒す実力を持つ勇者を見つけるように頼まれていたのですが、勇者について何か知っていることはありますか?」
だが、姫様は首を横に振りながら、
「ごめんなさい。伝説の勇者の情報については、今のところ何も把握できていないのです」
と、悲しそうな表情を浮かべつつ答えた。そこでユリカが口をはさむ。
「まあ、勝手に自分で勇者を名乗っている『自称勇者』ってのは数人いるんだけどね~」
「ええっ? それって将来の勇者候補になるかも知れないじゃん! 今のうちにチェックしておいた方が良いだろ。誰か知ってるヤツはいないのか?」
しかし、ユリカは人差し指を立てて「チッチッチッ」と言いながら指を振った。お前、それはクセなのか?
「さっき会ったエアリスなんかも、そうなんだよ~。この前、冒険者ギルドで見たんだけど、受付嬢のライムちゃんに向かって『伝説の勇者に、ボクはなるッ!』ってポーズをキメながら宣言しちゃったりして。ホント痛いよね~? ライムちゃん、ドン引きだったよ~」
あのポニーテール娘か……オレよりは強いかも知れないけれど、本物の勇者が持つような威厳や迫力は感じられなかった。あんなヤツばっかりなのか……自称勇者って……。
ガックリとうなだれたオレに、エルディア姫は初めての指示を出した。
「2人とも、今日の夕食は1階の共同食堂で食べて行ってください。今日から寝泊りする住みかは、冒険者ギルドの隣に空き家があるので、そこを2人で自由に使って構いません。まずは、冒険者ギルドのクエストを受けることで経験を積み、生活費を稼いでください。私による具体的な任務が決まったら、遣いの者をそちらへ送ります。それから、これは初期費用です。あまりにも少ないので申し訳ないのですが」
姫様は懐から小さな袋を取り出してオレに渡した。中をのぞくと、金貨がたくさん入っていた! 数えたら20枚も入っていた。
「やったあ! 2,000エルドもあるよ~。これで、ビンボーな生活からオサラバできるよ~♪」
ユリカは跳び上がって喜んだ。お前、そんなに貧乏だったの?
「国王が戻りましたら、あなたたちの事を伝えておきましょう。これから私は仕事に戻ります。2人の活躍、期待していますよ」
エルディア姫は、最後にまた微笑んだ。
「いろいろ、ありがとうございました」
「エルディア姫、またね~♪」
オレとユリカは部屋を出る。
ああ、とても姫様をデートに誘えるような雰囲気じゃなかったな……緊張の解けたオレは、深いため息を吐いた。
まずは、仕事で成果を上げるしかない……か。
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