第17話 伝説の忍者の伝説
エルディア姫は宙を見上げながら、何かを思い出すかのように語り始めた。
「200年前……かつてこの国が大陸全土の統一を目指している時、フェリオ様によってハチベエという青年が召喚されました。そう、あなたと同じニッポンという国から」
まさか! 200年前の日本から……当時の日本はまだ江戸時代だったハズだ。
「そのハチベエは、自らをニンジャと名乗り、我が国のためにその人並み外れた身体能力で情報収集、探索、暗殺などの裏の仕事を一手に引き受け縦横無尽の働きで大陸全土の統一に貢献したと言い伝えられています。あなたにも、その任務をお願いしたいのです」
なるほど。もともと八兵衛とやらは、武士か町人だったのかも知れないが、オレがこの世界で身につけた能力があれば忍者を名乗りたくもなるだろう。自ら勇者となって、魔王を直接倒しに行くのと比べれば、はるかにハードルは低そうだ。一応、念のためエルディア姫に聞いてみる。
「魔王討伐については、任務の中に含まれない……ということでよろしいのですか?」
「はい。申し訳ないのですが、私も一国の王女である以上、崩壊しつつあるこの国を何としても建て直さなければなりません。自分の国のことだけで精一杯なのです。ですから、ナリユキさんもこの国のためだけに働いてほしい」
それなら、なんとかできるかも知れない。だが、一つだけ引っかかる点があった。
「わかりました。この国のために、エルディア姫のために力を尽くします。ただ、モンスターはともかく人間の暗殺だけは気が進みません。もしかしたら、できないかも知れません」
オレは頭を下げた。姫様に「それは甘い考えですね」と叱責されるかと思った……が、エルディア姫は少し驚いた様子で、
「ナ、ナリユキさん……あなた、今まで人を殺めたことは……戦争に行ったことは一度も無いのですか?」
と尋ねた。オレはハッとして顔を上げつつ答えた。
「ありません。オレが生まれ育った日本という国は、今では法律で侵略戦争をしない決まりになっていて、若い人は戦争や戦後の厳しい時代を体験していないんです。とても平和な国で……人を殺してしまったら罪になり、法律で裁かれて罰を受けるようになっているんです」
その返答に、エルディア姫の目が大きく見開かれ、そして小刻みに震えながら言った。
「この世のどこかに、そんな夢のような国が存在するなんて……本当に羨ましい。私もそんな理想郷と言えるような国を造らなければ……わかりました」
そして、決意した。
「人間の暗殺については、ナリユキさんの任務から除外します」
オレは「ありがとうございます」と再び頭を下げた。感謝の気持ちでいっぱいだった。
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