第2話 女神の神殿(2)

「あなたの力が必要なのです」


 女神は冷静にそう言った。具体的にどういう事なんだ?


「あなたの力で、私が統治するリーデシア大陸の人々を救って欲しいのです。あなたには、これからその異世界リーデシアに行ってもらいます」

「オレの力で? いきなりそんな事を言われても困るよ! 大陸の人々を救うなんて、まさか勇者になって魔王を倒せなんて無謀な事は言わないよね!?」


 魔王にケンカを売るなんて、その時点で人生の詰みだ。ゲームオーバーだ。できるワケが無い。


「さすがに、そこまでは求めていません」


 否定してくれたか……そりゃそうだよね。しかし、次の言葉で甘い期待は即座に打ち砕かれた。


「あなたの役目は、その勇者を見つけ出し、魔王を倒すためのサポートをする事。勇者と協力して魔王を倒してくれれば、それが一番なのですが」

「ちょっと待って!? これじゃ、結局オレも魔王と戦う事に変わりが無いでしょ!? 一般人の高校生には無理だって!」

「落ち着いて、ナリユキ君。それは大丈夫です」


 大丈夫だって? どうして、そんな事が言えるんだ?


「なぜなら、あなたがこれから向かうリーデシアは、地球と比べて重力が弱いからです」

「重力が弱いって事は、つまり…………」

「そう、あなたの体に受ける重力の力が弱まる事で、あなたは現地の人々よりずっと速く走り、ジャンプすれば遥かに高く跳ぶことができるようになるのです。本気で力を出せば、弱いモンスターなら一撃で倒す事も可能になります」


 そ、それは凄い! 高校生になる今までモテる事も無く、勉強もスポーツも人並み以下で、家でゲームをやる事くらいしか取り柄の無かったこのオレが……。異世界なら、活躍できるかも……。

 だが、引っかかる点もある。オレは女神に尋ねた。


「魔王を倒すのは、さすがに無理でしょ? 勇者を見つけるくらいなら、大陸を旅すれば何とかなるかも知れないけど」

「この世界に、勇者になり得る候補者は何人かいます。それぞれの勇者候補を見極め、勇者に必要な武器と防具を用意する。それだけでも構いません」


 う~ん。それだけでも、かなりの労力だなあ……。

 そんなオレの思いを見透かしたのか、女神はこんな事を言い出した。


「もし、ナリユキ君の助力で、人間を支配しようとする魔王を倒す事ができたなら、あなたはこの世界で英雄として称えられ、名誉もお金も好みの女性さえも、何の不自由なく手に入れる事になるでしょう」


「えっ!? それホントに!?」


 もしかして、これは自分にとって大きなチャンスなんじゃないのか? もともと、このまま溺死するハズだったんだし……。


「よし、わかった! オレ、やってみるよ!」


 オレが元気良く答えると、女神はニッコリと微笑んでうなずいたのだった。


「お願いしますね、ナリユキ君」

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