第79話 謝るナリユキ

 オレが目を覚ますと、目の前に真っ白な視界が広がっていた。

 だけど、さっきの白とは違う……それは白塗りの天井だった。そして、自分がベッドの上で布団をかぶって寝かされていることに気づいた。どうやら、部屋の中にいるらしい。窓の外から、小鳥のさえずりが聞こえる。

 オレは、その場でガバッと身を起こした。ゼグロンは? 仲間たちは、どうなったのか?


「あっ! ナリユキ君、やっと目を覚ましたのね!」


 オレンジ色の長い髪を揺らして、女の子が近づいて来た。おそらく、オレの体を治癒してくれた……ちょっとアホなプリーストだ。


「ゼ、ゼグロンは、皆はどうなった!?」


 オレは慌てて、ユリカに尋ねた。しかし、彼女は口をへの字に曲げて、怒りながら答えた。


「まったく! あんな化け物をたった1人で追いかけるなんて、ムチャをして! 私が叫んで止めたのに、無視しちゃって! ホントに心配したんだから! ぷんぷん!」


 一気にまくしたてるようにして、言い切った。オレが急いでゼグロンを追った時に、必死に止めようと叫んでいたのか……無我夢中で、全然気づかなかった……。


「ご、ごめん。つい…………で、その後はどうなった?」

「私がベルファの杖に見せてもらって穴から外に出ようとしたら、あの悪魔がグリフォンの背中に乗って西の方角へ逃げて行ったのね。その後、私とベルファの2人で必死にナリユキ君を捜したんだから!」

「そ、そうだったのか……」


 オレは言葉に詰まった。ユリカは、さらに喋る。


「で、爆心地から少し離れた所に、ナリユキ君が吹き飛ばされて気を失っているのを見つけたの。大慌てでヒーリングをかけたのね! ベルファはその間に、城の衛兵さんを呼んで、ナリユキ君をこの病室に運ぶよう手配してくれて。だけど、ナリユキ君がまる1日、目が覚めなくて、私、心配だから離れられなかったの!」


 ユリカの話は、まだ続いた。ちなみに、街へ攻めて来た呪いの騎士団は、衛兵たちの必死の抵抗により撃退されたらしい。話を聞いたオレは、返す言葉も無かった。2人がオレのために必死で動いてくれる姿が……想像できた。メチャメチャ迷惑をかけてしまった……。


「ごめん。オレのせいで……」


 オレは、頭を抱え込んだ。同時に、女神フェリオに言われたことを思い出した。ノリの軽い女神だけど、あの言葉は言わなければ……。

 その時、部屋のドアがノックされて、赤髪ショートカットのウィザードが中に入って来た。ベルファだ。でも、エアリスは一緒にいない。


「あれっ? ベルファ。エアリスはどうしたの?」


 ユリカが、オレより早くベルファに尋ねた。ベルファは冷たい声で答える。


「あのチャンスで、あんな大ポカをやらかすバカは、あたしがボロカスにこき下ろしてやったわよ。今頃、どこかで落ち込んでるでしょ。いい薬だわ」


 よ、容赦ねえな……オレは、冷や汗をかいた。


「あ、あのな、ベルファにユリカ」


 オレは、少し怯えながらも2人に話しかけた。2人は同時にオレの方を向いた。


「起きていたのね、ナリユキ。まあ、あの程度で死ぬタマとは思ってないけど」

「ウ、ウソ! ベルファ、あなただって……」


 淡々と話すベルファに、ユリカがつっかかる。いったい、何の話だ?


「それで何なの? ナリユキ?」


 ベルファが何か言おうとするユリカを右手で制して、オレをじろっと睨む。

 やっぱり、この女は怖い。でも、言わなければ!


「いや、その……2人にはちゃんとお礼を言いたくて……オレのために真剣に動いてくれて、ありがとう。本当に感謝してるよ」


 2人の顔を交互に見ながら、お礼を言った。怒るかな……。


「べ、別に! あんたは以前、拉致されたあたしを親身になって捜索してくれたでしょ! か、借りを返しただけなんだから!」


 少し顔を赤くしながら、ベルファは吠えた。よかった、怒ってはいないようだ。


「本当に感謝してるの? もうムチャはしないって、約束できる?」


 ユリカは、オレのすぐ目の前に顔を寄せて来て、両眼を真ん中に寄せた。か、顔が近い近い近い!


「や、約束する! だから許して!」

「よーし、いい子なのね♪ エラいエラい♪」


 ユリカはニッコリ微笑んで、オレの頭をナデナデした。

 何だ? フェリオ教って、頭をナデナデする風習があるのか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る