第83話 ザリウス13世の挑戦

「な、何だ……この部屋は……!」


 オレはレゼルブに連れられて、1階の大広間へ来ていた。しかし、その部屋の中には、明らかに異様な光景が広がっていたのだ。

 小さな正方形のテーブルが5×5で25個も配置され、各テーブルにはそれぞれ向かい合うようにして椅子が並べられていた。そして、衛兵や文官たちが席に座って、それぞれ将棋を指していたのだ。席は半分近く埋まっていた。

 最大で50人が同時に将棋を対戦できることになる。


「こ、これは……」


 オレは自分の一番近くにある将棋盤を手に取った。立派な木で作られており、本物と比べても遜色ない出来ばえだ。

 続いて、盤のそばにある箱のふたを開けると、やはり木で作られた駒が詰まっていた。オレはその中から、銀将をつまみ上げてじっくりと観察した。凄い……駒まで完璧に再現されている……!


「レ、レゼルブさん? こ、これって……」


 戸惑うオレに対して、レゼルブは冷静に答える。


「陛下が道具屋のクライゼに発注して作らせたのだよ。3日前に納品されたばかりではあるが……」


 うわ~。いきなり将棋の盤駒なんか作らされて、あの人も大変だな……。

 オレはレゼルブとともに、部屋の一番奥の席へと移動した。そこでは、国王であるザリウス13世と参謀のターバルが将棋を指していた。


「うっはははは! 王手!」


 国王が大きく叫んで、持ち駒の金将をバッチーン! と派手な音を立てて打ちつけた。


「あっ! い、今の手、ちょっとやり直させてもらえませんか?」

「ダメじゃダメじゃ! 待ったは無しじゃぞ!」


 懇願するターバルに、それをはねつける国王。あんたら、こんな所で遊んでいる場合なのか!?


「陛下。ナリユキ氏をお連れしました」


 レゼルブが、淡々とした口調で国王に報告し、自らはその場を去って行く。


「おお! 来たかナリユキ! 今、勝負がついたところじゃ。ワシは、あれから一気に腕を上げたぞ! もう、おぬしに負けはせん!」


 偉そうに胸を張る国王。いや、もちろん立場は偉いんだけど。

 こんな立派な将棋道場を作る情熱を、政治の方に傾けてくれよ! メッチャ行動力あるじゃねえか!

 もちろん、それは口に出せない。その代わりに、オレはこう答えた。


「陛下は、今まで一度も私に勝ったことがありませんでしたよね? かなりの自信のようですが、それでも私に勝てるとお思いですか?」

「ああ、勝てるとも! ワシは新戦法を編み出したのだからな!」


 オレの挑発に対して、国王は満面の笑みを浮かべて答えた。


「今日からは毎日、ワシの将棋に付き合ってもらうぞ! おぬしが勝つまでは、おぬしをここからは帰さん!」


 国王はさらに調子に乗って、ムチャクチャな条件を持ちかけてくる。そんなことだろうと思ったよ……。


「いいでしょう……受けて立ちますよ。ハンデ無しの平手で指します。先手は陛下にお譲りしますよ」


 オレは、ターバルと席を替わって駒を並べ始めた。


 そして、対局開始。

 しかし、展開が進むにつれて、オレは目を見開いた。 

 こ、これは……この駒の動きは……!

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