第77話 ナリユキ、死す!?
「バ、バカな……!」
次の瞬間、驚愕の声を漏らしたのは、なんとベルファだった。ゼグロンが放った巨大な水の渦をかわしたものの、今の魔法でかなり消耗したらしく、杖に寄りかかるようにして片膝をついていた。
ベルファがゼグロンへ浴びせた炎の渦は、ものの10秒ほどで消えてしまったのだ。そして、青いタキシードを黒焦げにしながらも、ゼグロンはその場に立っていた……信じられない……。
「今のは危なかった……この戦闘服を着ていなければ、死んでいたぞ。人間相手に、これほどの屈辱は初めてだ……覚えておけ、お前たち4人は必ず殺す!」
見えないはずの目を吊り上げて、怒りをあらわにするゼグロン。そして、ふわりと宙に浮いた。逃げる気だ!
「ちょっと! 私まで含めないでほしいのね!」
ユリカが心外だと言わんばかりに反論する。ちょっと、それは都合が良すぎるんじゃないのか? まあ、お前はゼグロンに直接攻撃してはいないけど。ユリカのヒーリングはまだ途中だが、仕方ない。今、戦えるのはオレしかいないんだ。
オレは、飛行して穴から外へ逃げようとするゼグロンを走って追いかけ、そして力の限りジャンプした。穴の外からは、強い向かい風が吹いてきていたが、そんな事は気にしてはいられない!
オレは辛うじてゼグロンの足を右手でつかんで引っ張った。その反動で、ゼグロンの体がガクンと下がる。そして、オレは左手でゼグロンの腹の辺りの服をつかんで自分の体重をかけてやった。
「くっ! は、離せっ!」
「ここまでやっておいて、逃げられると思うな! 逃がすと思うな!」
オレは、そのままゼグロンの上半身にしがみつき、一緒に落下していく。ヤツの着ているタキシードの背中から、ツンと焦げた臭いが鼻をついた。このまま行けば、ヤツの頭は地面に激突する。
しかし、ゼグロンはブツブツと何か喋り始めた……こいつ、初めて呪文を詠唱したのか!?
突然、落下がピタッと止まった。見ると、わずか地上数十センチのところでオレとゼグロンの体が宙に浮いていた。
「チッ! あと一歩だったのに!」
オレは舌打ちして両手をゼグロンから離したが、そのままあお向けに転倒してしまった。くそっ、まだ上半身が痛い……。
オレが弱気になりかけた……それが、いけなかった。
ゼグロンがそのまま空中へ高く飛び、両手を高く掲げてその上に青白く不気味に光るサッカーボールほどの光の玉を生み出した。
あれは……前に見た事がある……爆裂魔法だ!
「お前だけは、ここで消えて無くなれ!」
ゼグロンが両手を真下へ振り下ろし、光の球が徐々に大きくなりながら、こちらに迫って来る。この辺り一帯を、まとめて吹き飛ばす気だ!
オレは痛みで悲鳴をあげる自身の体を引きずるようにして、後ろへ思いっきり飛び跳ねた。しかし、光の球はオレの体を包み込み、視界が真っ白になった。体が熱い……!
そして、ユリカ、エアリス、ベルファが笑う顔が走馬灯のように流れていく。ああ……やっぱり短い人生だったなあ……。
オレの意識は、そこで途切れた。
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