第111話 エアリスとの別れ
エアリスの握り拳は、ベルファを捕えることはできなかった。
なぜなら、その瞬間にオレ自身がベルファの前へ両腕を広げて立ちはだかってエアリスの拳を自分の頬で受け止めたからだ。
「ええっ!?」
エアリス、ベルファ、ユリカによる驚きの声が、公園内に響き渡った。
「ナ、ナリユキ……どうしてキミは……!?」
エアリスがオレにベルファの身代わりになった理由を尋ねてきた。
「女騎士のお前が、力が弱い魔術師のベルファを殴ることなんて、オレが黙って見ていることはできない。でも、お前が悔しいという気持ちはわかるから、リーダーのオレが代わりに殴られればお前の怒りも少しは消えてくれるだろうと思ったからよ」
この世界が地球と比較して低重力であったから、エアリスよりも素早く動いて彼女の拳を自分の顔面で受け止めて殴り飛ばされないように耐えることは、難しくなかった。そして、オレの前身の肉体が固く強化されていても、顔の頬は柔らかいからエアリスの拳が痛くなることも無い。
「良かった~。一瞬だけビックリしたよ~。ナリユキ君にマゾの趣味があったのかと思って……」
「そんなことは絶対に無い! ふざけるな!」
ホッとしたユリカがアホなことを言い出したので、思わず強いツッコミを入れてしまった。
「でも、ボクは絶対に勇者になりたいから、このチームメンバーを抜けるよ……さようなら…………」
エアリスは、そう言ってオレたちに背を向けた。その時に、ベルファが厳しい言葉を投げつけた。
「チームを抜けるのなら、今日中にアジトからアンタの荷物を全部持ち出していきなさい!」
「わ、わかったよ……」
エアリスは、答えてトボトボと歩き出した。そして、ベルファはさらに厳しい一言を呟いた。
「まったく……エアリスは、最低だわ! ナリユキを殴っておいて謝りもしないし、『今までありがとう』のお礼すら言わない。あんな女は、チームから消えた方がいいわよ!」
パーン!
今度は、オレが驚いた。ユリカがベルファの顔を平手で叩いたからだ。
「どうして、私を叩くのよ!?」
ベルファが、顔を真っ赤にして激怒した。しかし、ユリカは普段と違う静かな声で話していった。
「今まで大事なチームメイトの1人だったエアリスに対して、その言い方は酷すぎるよ。あなただって、エアリスに助けてもらったことがあったでしょ?」
「くっ……!」
ベルファは、ユリカに叩かれて赤くなっていた頬を右手で抑えて少しだけ涙を浮かべていた。その涙を出した理由については、悲しみによるものか、痛みによるものかについてはわからなかった。
「ベルファ、大丈夫か?」
念のため、オレは彼女へ問いかけた。さすがに、少し心配になったからだ。
「大丈夫よ……でも、このユリカが本気で怒ると、こんなに力を出せることは知らなかったわ。ただ、今のビンタは納得できないわね」
ベルファは、強気の発言で返答してきた。そして、ユリカを睨みつけた。
しかし、ユリカの冷静な話し方は続いていた。
「まずは、残った3人で落ち着くことが大事なのね。リーダーのナリユキ君は、このベンチで座って待っていて。私は、ベルファと2人で買いに行くから。3人で食べるためのドーナツを買ってくるから」
「ええっ!?」
オレとベルファは、驚きの声を上げた。まさか、ユリカがそのような提案をしてくるとは思わなかったからだ。まあ、オレは好きなお菓子が食べられるので不満は無いが……。
「チッ…………わかったわよ。私はドーナツが大好物だから、食べながらアンタの話を聞くわ」
ベルファは、舌打ちをして渋々ながらOKした。
異世界忍者はナリユキまかせ 宗谷ソヤナー @souyasoyana
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