大昔に人がどういうふうに生きていたか。
私は、正直あんまり想像できません。
歴史モノ、時代モノ、伝奇モノ。
過去の日本を舞台とした物語を読んではじめて、なんか知った感じになるものです。
特に人物が血肉を備えているように人間らしく描かれ、行動するさまを見せられるときに、やっと過去の出来事が人間の行いの関わりの中で起こったのだと思える。
そんな私は、かなりの歴史弱者です。
本作の主人公、鎮西八郎はその能力の他はまったく人間らしいのです。
彼の行動を眺めつつ、後に続くように読み進めるならば、自然と物語の中、深みのある歴史の変遷の渦中へ連れて行かれることになるでしょう。
まだ本作を見ぬ方はEvelyn謹製(敬称略)源為朝の伝奇の世界へ訪れましょう!
ワクワクしますよ。
妖狐や傾国の美女として名高い、玉藻の前。その子供として生まれたのが主人公の八郎だった。しかし父親は妊娠期間の短さから、主人公が自分の子ではないのではと疑い、厳しく当たる。そんな中で育った主人公の性格は、よく言って磊落。悪く言えば短気で焦慮だった。
しかし、父親から見張り役として与えられた青年は、主人公が小さな器ではなく、狭い世界に留まる人材ではないことを見抜いていた。そして商人として様々な人を見てきた老爺もまた、主人公が大器だと見抜き、青年にアドバイスを与える。
そして主人公は武芸の道を極めながらにして、寺に預けられる。そこで主人公は真理を追究して日々を送る兄弟子に出会い、深く自分や世界を考えるようになる。その寺にいるときに出会ったのが、後に主人公に付き添うことになる面々だった。
寺から俗世に戻った主人公は、海を越え、大宰府を目指すことになるのだが、この時代の海では海賊ともいえる海軍が縄張りを主張し、交易船を襲うような荒れた世界だった。
主人公一行は、果たして海を越えて大宰府につけるのか?
そして、主人公が目指す政のあるべき姿とは?
主人公がこれからどうしていくのか?
歴史小説において実在の人物を扱うとなると、歴史好きな読者にはストーリーがばれてしまうということになる。ここが歴史ものの難しさだろう。
しかしこの作品は、幼少期の主人公が成長するにつれて、様々な人々と出会うことで、主人公の心が変化していく様を見事に描き切っている。例えば幼少期に磊落すぎる性格だった主人公が、戦に勝っても胸にむなしさを感じたり、武芸以外にも人と通じることを学んだりしていくのだ。この繊細な心の機微と、歴史的な考証の正確さが相まって、ストーリーの先は読めるのに、話の展開は読めないという、巧みな物語を生み出している。歴史好きではない小生も、あっという間に最新話まで拝読してしまうほどの面白さが、ここには詰まっている。
歴史が好きでも嫌いでも、御一読をお勧めします。
日本史の細かな知識がなくとも充分に楽しめる、エンターテインメント性に富んだ物語です!
美貌の白拍子「玉藻」の正体が、ファンタジー好きにはお馴染みの九尾の狐と言うところからも、このお話が堅苦しいものではないと察せられるところ。
かといって、ただの絵空事のみで構成されるのではなく、登場人物の、あまり表に出ない為人を掘り下げたキャラクター作りは歴史好きにも楽しめると思います!
3歳にして早くも怪童の片りんを見せ始めた八郎(為朝)の行く末は如何に!?
末恐ろしい八郎を主人公とした、和風ヒロイックファンタジーを一緒に楽しみましょう!
とにかく作者様の知識がすごい。
歴史小説とは厳密には若干違う「伝奇小説」でありながらも、作中の描写は歴史的事実や時代公証に基づいている。またその他の情景も筆致が鮮やかで、情景が目の前に浮かぶようなリアリティーがある。
平安最末期という読者にとっても作者にとっても馴染みのない舞台を、ここまで鮮やかに書けるのは本当にすごい。歴史に詳しくない自分でもぐっと物語に引き込まれた。
ストーリーも純粋に面白く、主人公の八郎(源為朝)が暴れまわる様子が面白い。史実の源為朝も同じくバリバリの武闘派だったらしいのだが…………もっと歴史の勉強をしとけばよかったと後悔。
とにかく、あらすじを見て惹かれた人は、ぜひ読んでみて欲しいです!
歴史ものに興味がない方も、ひとまず数話は読んでもらいたいなと、心から思います。
気付けば作者様の紡ぐ物語の勢いに呑まれ、次へ次へと読み進めてしまうはず。
しっかりとした時代考証を元にした、虚実まじえたオリジナルの歴史ファンタジー。
めちゃくちゃおすすめです。(語彙力なくてすみません)
夢枕獏先生の伝奇SFなど、伝奇ものは色々と読んできました。そうした作品から感じる熱を、この「異聞・鎮西八郎為朝伝」を読んでいて確かに感じます。
作者様が放つオリジナリティが雨粒のように降り注ぎ、やがて合流して激流となっていく様を、最後まで追わせて頂こうと思います。
この度は素敵な物語をありがとうございます。