第102話 ニセナリユキとの決戦

「行くぞ、ニセナリユキ!」


 エアリスが、オレに化けたダナシャスへ向かって叫んだ。むう……少し不本意だが、オレもそう呼ぶことにしよう。

 オレは、ニセナリユキへ向かって真正面から走って行く。その後に、エアリスがピッタリとついて走って来る。


「正面から突っ込んでくるとは、愚か者め!」


 ニセナリユキは、生意気にも口角を上げて身構える……くそっ! オレが悪事を働いているみたいで、腹が立つ!


「とうっ!」


 しかし、オレは身構えるニセナリユキの7、8歩ほど手前で大きくジャンプした。大広間の天井は、建物3階分くらいの高さがあるので、上手く力をセーブすれば、天井に頭をぶつけることは無い。

 オレはそのままニセナリユキの頭上を跳び越えて、体を反転させてニセナリユキの方を向きながら着地体勢に入る。

 ニセナリユキに対して、前後からの挟み撃ちを狙う作戦だ。


「でやああああーっ!」


 エアリスは叫びながらニセナリユキへ突進し、片手剣を振り上げる。

 しかし、そこでベルファの声が飛んだ。


「エアリス、いったん退いて! また眠りの魔法よ!」

「うっ!?」


 言われたエアリスはピタッと動きを止めて、3歩ほど後退した。そして、慌てて左の手のひらで自分の口元を押さえる。


「く、くそっ……ボクは眠らないぞ……!」


 オレがジャンプした瞬間、動揺することなく眠りの魔法を詠唱していたのか……油断ならないヤツだ。


「眠りの空気は、しばらく私が封じるわ! エアリス、行って!」


 杖をかざして眠りの空気を解除したベルファが叫び、エアリスがニセナリユキへ襲いかかる。一方、オレは既に地面へ着地して、背中から名刀『鉄子』を引き抜いた。

 しかし、エアリスとニセナリユキの様子を見て戸惑った。

 エアリスの動きが、いつもと比べて鈍いのだ。ニセナリユキは、軽々とエアリスの攻撃をかわしている。おそらく、エアリスが少しだけ眠りの空気を吸い込んでしまったのだろう。


「ならば、オレがやるしかない!」


 オレは『鉄子』を振り上げて、ニセナリユキへ飛びかかった。

 しかし。

 ニセナリユキはオレの方へ向き直り、両手をかざして叫んだ。 


「トルネード!」


 この魔法は――――!

 その瞬間、オレは竜巻に飲み込まれて宙に高く舞い上がった。

 しまった……コイツは元魔術師だった……このくらいの魔法が無詠唱で使えることくらい、想定できたハズなのに……!


「ぐはっ!」


 オレは、背中から激しく地面に叩きつけられた。そして、最悪なことに……『鉄子』はオレの手から離れて、窓ガラスをブチ破って外に飛び出してしまったのだ。

 かつて一度犯したミスを、この場でまた繰り返してしまうなんて……!

 オレは、自分を激しく呪った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る