第66話 ベルファの修行

 あたしは、今日も一人で魔法の修行を続けていた。

 ここは、宿屋から少し離れた場所にある、小さな空き地。空き地の隅には、魔法をぶつけるためのワラで作った人形が立ててある。

 まあ、上半身だけ作って、下は木の棒を地面に差している粗末な物なんだけど。まあ、鳥などが近づかないようにするためのカカシみたいなものね。

 私は呪文を唱えて、杖の先から生まれた火球を人形目がけて飛ばしていく。火球は綺麗に弧を描いて、人形の中心に命中した。


「よし、ようやく上手くいったわね」


 直線的に火球を飛ばすのは割と簡単だけど、カーブさせるのは一苦労なのよね。術者にかなりのコントロールが求められるから。

 以前、あたしは自分で作った火球を味方であるエアリスにぶつけてしまった事がある……それも、2回も。あいつ、素早くてチョロチョロ動き回るもんだから、照準を合わせづらいのよね……。

 でも、こうすれば彼女に命中する危険性はグッと下がるはずだわ。

 あたしが安心して、ふうっと溜め息を吐いたその時だった。

 ……魔力を感じる。巨大な魔力の塊を。

 そいつは、西の方角から押し寄せてくる……それも邪悪な感じの魔力が。

 あたしはその場で自分の杖に跨り、飛翔の呪文を詠唱した。あたしの体がふわりと浮き、そのままゆっくりと上昇していく。王都のすぐ近くに青い鎧にみを包んだ騎士たちがこちらへ向かって行進してくる。


「あれは、鎧のモンスター、呪いの騎士だわ!」


 以前、ナリユキと会った塔の中で戦った……中身ががらんどうの騎士だったのだ。

 鎧の内部に魔導石が組み込まれていて、その魔力によって稼働している厄介な魔物だ。


「いけない! 早く、ナリユキたちに伝えないと!」


 あたしは急いで、ナリユキたちの修行場所へ飛んでいく。もしもの時のために、お互いの場所は伝え合っている。


 いた!


 ナリユキ、ユリカ、エアリス……3人ともいる。あたしはそこで急降下して、3人の前に降り立って叫んだ。


「ナリユキ! 魔王軍が攻めて来たわ! 迎撃するわよ!」

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