第103話 ナリユキとニセナリユキ

「うああああーっ!」


 エアリスは、自分の睡魔を断ち切るかのような大声を上げて、ニセナリユキ目がけて剣を振るっていた。

 しかし、連続攻撃が一発も当たらない。眠りの空気を吸ってしまったエアリスのスピードが、明らかに落ちているのだ。


「ふはははは! 遅い! 実に遅いなあ!」


 ニセナリユキは高笑いしながら、エアリスの剣をひょいひょいとかわし、そしてエアリスの顔を殴りつけた。


「ぐあっ!」


 殴られたエアリスは、そのまま3メートルほど吹っ飛んで床に叩きつけられた。


「エアリス、しっかりして!」


 慌ててユリカがエアリスの元へ駆け寄り、ヒーリングをかけようとする。


「ふははははっ! やはり素晴らしいパワーだ! 素晴らしいぞおおおおっ!」


 その場で嘲笑するニセナリユキ。オレはその姿を見て、無性に怒りがこみあげてきた。


「オレの姿で、オレの仲間を傷つけるなあーっ!」


 竜巻で受けた痛みなど、気にしてはいられない! オレは、なりふり構わず立ち上がり、ニセナリユキ目がけて突っ走った。

 そして、自らの拳でニセナリユキの顔を思いっきり殴りつける。


「ぐおっ!?」


 ニセナリユキは体勢を崩すが、オレと同じ体だ。倒れはしない。

 逆に、オレのわき腹へ蹴りを叩き込んできた。


「ぐふっ!」


 オレも倒れはしないものの、上体が横へとグラついた。

 刀が無い以上、魔法を使われるのは圧倒的に不利だ。

 格闘戦に持ち込んで、魔法を使わせないようにするしかない!

 オレはニセナリユキの体をつかんで、一気に床へ押し倒した。


「このニセモノ野郎!」


 そして、倒れたヤツの上に跨って、再び顔を殴りつける。オリジナルのオレが、ニセモノなんかに負けてたまるか!


「うるさい! 私にも怪盗としての意地とプライドがあるのだ!」


 ニセナリユキは怯まずにゴロゴロと床の上を転がって、逆にマウントを取ってオレの顔を殴りつけた。


「このニセモノめ! 地獄に落ちろおおおーっ!」

「最後に勝つのは、この私だあああーっ!」


 オレとニセナリユキはお互いに殴り合い、体をゴロゴロと回転しながら、取っ組み合いのケンカを繰り広げていた。


「うあ……あ……これじゃ、どっちが本物のナリユキか、わからないよ……」


 ユリカの魔法で回復してもらったエアリスが、困惑の声を漏らした。

 しかし、一人だけいた。全く迷いの無い者が。


「サンダーフレア!」

「ぐぎゃああああ!?」


 ベルファの電撃魔法が、オレとニセナリユキの2人を同時に捉えた。さっき、ガラスケースのトラップで感電したばかりだというのに……!


「ふざけるな、ベルファ! ニセモノと一緒に、オレも殺す気かッ!?」


 オレは、彼女を怒鳴りつけた。こんな仕打ち、納得できないぞ!


「そうだそうだ! お前には、仲間への愛や友情という物は無いのか!?」


 オレの隣で、ニセナリユキも叫ぶ。いや、悪党のアンタには言われたくねーよ。

 しかし、ベルファは冷酷に笑って答えた。


「ダナシャス! ナリユキなんかに化けたのが、あんたの運の尽きよ! なぜなら、ナリユキの顔は世界で一番イジメ甲斐のある顔なんだからね! このまま二人まとめて、イジメ倒してあげるわ!」

「そ、そりゃねーよ……」

「あ、あんまりだ……」


 オレとニセナリユキは、ガックリと肩を落とした。せっかく今まで頭脳戦を展開してきたベルファだったが、どちらが本物のオレかを推理するつもりは、さらさら無いらしい。

 絶望しかけたオレとニセナリユキだったが、そんなオレたちに対して、ベルファが魔法で作った水の球を2つ飛ばしてきた。

 そして、それらの球は1つずつオレとニセナリユキに命中して弾けた。


「な、何だこの液体は……?」

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