第96話 消えた宝石

「行くよ、ナリユキ!」


 エアリスのかけ声とともに、彼女とオレは同時にダナシャスへ飛びついた。既に窓のカーテンは燃え尽き、火は消えかけていて、体中から煙がモウモウと立ち昇っている。

 オレはダナシャスの体を捕まえたのだが……手ごたえが無い……軽い、軽すぎる……。何だ、この感触は……?

 オレは、力任せにダナシャスの体をグイッと引っ張った。ブチッと音がして、オレはそのまま後方に倒れ込み、後頭部を強かに打ちつけた。いててて……。


「光よ集え! ライトボール!」


 ベルファが近寄って来て、魔法で光を灯した。手のひらの上に乗るくらいの小さな光の球が、オレたちの周囲を照らし出した。

 オレは、捕まえたダナシャスの体を見て驚愕した。

 スーツとマントを身に着けてはいるが、その中身は布で作られたぬいぐるみのような人形だった。


「そんなバカな! 人形が喋るハズが無い!」


 叫ぶオレの隣で、ベルファがしゃがんで人形の顔の部分に触れた。

 そして、顔の中からブチブチッと音を立てて、何かを引き抜いた。


「これは、魔導石……。この石に自分の声を吹き込んで、人形が喋っているように錯覚させたんだわ……」

「いったい、何故ダナシャスはこんなことを……?」


 オレは、ベルファに尋ねた。彼女は、すぐに反応した。


「まずい! 急いで大広間に戻るわよ!」


 ベルファは、ガバッと立ち上がる。オレもすぐに立ち上がった。しかし、何故かエアリスの反応が少し遅れる。何か考えているのか……?

 そして、オレたちが台所を出ると、廊下でユリカが待っていた。


「ナリユキ君! ダナシャスは捕まえたの!?」


 ユリカはオレに問いかけるが、今はそんな状況じゃない。


「急いで大広間へ戻るぞ! 宝石が危ない!」


 オレはそう答えると、廊下を走った。4人の中ではオレが一番、足が速い。他の3人は後からついてくればいい、そう思っていた。


「あっ!」


 大広間の扉を開けたオレは、思わず叫んだ。レゼルブと2人の警備兵がみんな倒れている。そして、大広間のガラスケースの中にあった宝石が消えていた。


「部屋に入らないで! みんな、眠らされているわ!」


 後ろから追いついて来たベルファが叫び、眠りの空気を解除するための魔法の詠唱を始めた。

 オレは、ショックで頭の中が混乱していた。後ろにいると思っていたユリカとエアリスに声をかけようとして、さらに驚いた。

 一緒について来たハズのエアリスが…………いない!?

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