第15話 麗しのお姫様
オレとユリカはそのまま進み、簡素なドアの前で立ち止まる。ドアのノブに『仕事中』と書かれた札が掛けられていた……おお、文字も普通に読めるぜ。
ユリカがドアをコンコンとノックする。中から「どうぞ」という凛とした声が響いた……やべぇ、一気に緊張してきた!
ユリカがドアを開けて「失礼します」と挨拶しながら中へ入る。オレも続いて中に入り、ドアを静かに閉めた。
部屋の中にはテーブルが2つあり、いずれも書類や本などの資料がたくさん積み上がっていた。仕事用の部屋だからか、内装は飾り気も何もない。
そして、テーブルの奥にある椅子に金髪ロングヘア―の女性が座っていた……引き込まれるような美しい碧眼でオレたちを見つめている。ピンクのドレスを身にまとい、透き通るような白い肌。
綺麗だ……オレは金縛りにあったかのように、その場で直立不動になってしまった。
「初めまして。ザナトス王国の第一王女、エルディアと申します」
エルディア姫は、そう言って深々と頭を下げた。正直、あの女神フェリオより美人だ……いかん、見とれていないで会話しないと!
「え、えっと……な、ナリユキと申します。め、女神フェリオに召喚されて、この世界へやって来ました……」
ダメだ。緊張しすぎて声が震えている。だが、エルディア姫はそんなオレを優しさで包み込むような微笑を浮かべて、こう言った。
「ええ、話はうかがっています。先ほど、魔物から街の人々を救ってくれたことも。本当にありがとう」
「い、いやあ……アレはたまたま上手くいっただけですよ」
このお姫様の前では、とてもウソや強がりを言えなかった。思わず本音を口に出していた。
「で、ナリユキ君のお仕事の話なんだけど」
ここで、ユリカが口を挟んだ……って、おおおおい!? お前、姫様に敬語使わないの!?
「そうですね……ナリユキさん、この国へ来られたのは、いつですか?」
エルディア姫は、少し考えてから質問してきた。オレは答えるのだが、やっぱり声が震える。
「き、今日来たばかりです。まだ、この国や世界について、よくわかっていなくて……」
いかん、会話をするだけで精一杯だ。顔が火照っているのが、自分でもわかる。
エルディア姫は、そんなオレをどう思っているのか知らないが、やはり微笑を浮かべたまま言った。
「もし、わからない事があれば、あなたの付き人を務めるユリカさんに遠慮なく聞いてくださいね。ユリカさんは、いろいろと力になってくれますよ」
……えっ? コイツそんなに優秀なの!? オレは隣で「えっへん!」と胸を張るユリカに疑いの視線を向けた。信じられねえ……。
「ただ、このリーデシア大陸や私たちのザナトス王国の大まかなあらましについては、私から話しておいた方が良いですね。少し、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「も、もちろんです! 喜んで聞かせていただきますッ!」
オレは、勢いよく頭を下げた。断る理由など、あろうはずがない。姫様は美人なので、ずっと話していたいくらいだ。
こうして、エルディア姫による短期集中講義が始まった。
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