第98話 みんなで作る「五平餅」【レシピあり】
「まず、ごはんを麺棒でひたすらつぶしてください。べたべたしてくっつき始めたら、麺棒に水をつけるとやりやすいです」
「ごはんを潰す? で、でもこれは、もち米とは違う普通のお米だろう?」
「うん、今回はこれでいいんだ」
「そ、そうか。なら――」
僕がスキル【炊飯】で炊いたお米を、アリア父とうちの両親がボウルに分けて配布し、住民たちにつぶす作業を手伝ってもらう。
横でアリアもそわそわし始めたので、小さいボウルに入れて渡してみた。
――これ、けっこう力がいる作業だからな。
アリアに完遂できるかな……こいつ飽きっぽいし。
「……なんか今、失礼なこと思わなかった? 私だってやればできるんだからっ!」
アリアは僕の心の声を察したのか、むっとした様子で必死にお米をつき始めた。
こうなると逆に、意地でもやり遂げようとするタイプだ。
手を痛めないように見ておこう。うん。
住民たちに渡したボウルの中身が、次第にごはんからねっとりとした塊へと変化していく。
僕はその間に、すりつぶしたくるみ、ごま、砂糖、みりん、醤油、味噌を混ぜ合わせて、五平餅に塗るたれを完成させる。それから――。
――よし、甘いのが苦手な人もいるだろうし、アレンジ五平餅も作ってみよう。
僕は訪れた村の1つでもらったせり、それから干しエビを細かく刻む。
ちなみにエビは、桜えびのような小さく淡いピンク色をしたものだ。
「あの、これをそのごはんに混ぜ込んでほしいんだけど……」
「うん? ああ、分かった」
せりと干しエビ、それから塩コショウを少々、渡したボウルの半分に加えていく。
15分もすると、すべてのボウルのごはんが少し粒を残しつつも1つの塊になった。
「白いごはんは、お箸にまきつけて楕円形に整えてください。せりと海老、塩コショウを混ぜたごはんは、このチーズを中に入れて――」
「チーズ!? チーズを入れるのね!?」
1つずつ実践して見せると、横でアリアが目を輝かせる。
まあ、ライスケーキの時にチーズ入れるの却下しちゃったし。
今回チーズ入りにしたのは、いつも頑張ってくれるアリアへの感謝の意でもある。
形成が完了したら、大人たちに用意してもらった網の上に並べて焼いていく。
しばらくすると、パチパチという音とともに、香ばしい匂いが漂い始めた。
ごはんの表面も程よく水分が飛んで、少しこんがりしている。
「――こんなもんかな。白い方に、このくるみが入った味噌を塗ってください」
「私もやりたいっ」
「アリアはだめ。火傷したら大変だろ。大人たちに任せよう」
「ええー……」
不服そうなアリアをなだめ、味噌が塗り終わるのを待つ。
あとは上から少し炙りたいな……。
僕は木の枝に火を移し、それで味噌の部分を軽く炙っていく。
アリアが「自分だけずるい!」と言わんばかりに頬を膨らませているのが視界に入ったが、まあ今回は無視しよう。本当に危ないし。
「できたああああああ!!! みんな、熱いうちに召し上がれ。でも火傷には気をつけてね! ……はい、アリアも。こっちは甘い味噌、こっちはチーズ入りだよ」
「わあ! えへへ、ありがとうっ♪」
1つずつお皿に入れてアリアに渡すと、一気に笑顔になる。
集落の住民やアリア父、うちの両親も、それぞれ五平餅をお皿に乗せていく。もちろん、メイドさんやフローレス商会の従業員も。
「うっま! 何だこれ!? こいつはすごいな。この少し残った米粒がまたいい」
「お味噌が甘くておいしいーっ! くるみがごはんに合うなんてね」
「俺はせりと干しエビのが気に入ったぞ。せりのほろ苦さがクセになる。こりゃ毎日でも食いたいくらいだ」
みなそれぞれ、できたての五平餅を堪能している。
気に入ってくれたみたいでよかった。
「フェリク、これすごいわ。おいしいっ! お味噌こんなに塗って辛くないの?って思ったけど、とっても甘いのね!」
「おいしいだろ? この味噌は、切ったにんじんとかきゅうりとか、野菜につけてもおいしいよ」
「にんじんはあんまり好きじゃないけど、これがあれば食べられるかもしれないわ。こっちのチーズが入ってるのもすごくいい!」
どうやらアリアもだいぶお好みだったらしい。1本ずつ計2本、あっという間に食べきった。
――こういうみんなで作る料理はイベントとしても楽しめるし、定期的に五平餅祭りをするのもアリかもな。
これもアレンジ無限大だし、もっとレシピを考えて、ここの名物祭りに……。
これは夢がふくらむ!!!
***
【レシピ】五平餅&せりとエビ、チーズの五平餅(近況ノート/写真あり)
https://kakuyomu.jp/users/bochi_neko/news/16817330654817690958
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