第92話 ロカルの人々が仲間になった!
「ねえおじさん、このお茶、品種改良したお米で作って本格的に売り出せないかな? 茶葉がなくてもこんなにおいしいなんて、革命的だと思わない?」
お米をアリスティア領の特産品としたい領主様の狙いとも合致しているし、お茶ならば販売もしやすい。
領主様も気に入ってくれるだろう。
「うん、私もそう考えていたよ。このロカルの特産物として広めれば、村のいい収入源になるかもしれない。それにPRにもなるしね。村長さん、いかがです?」
「それはとても有難いご提案です。しかし、いかんせんうちには元手が……」
「ああ、問題ありませんよ。うちは、うちと契約してくださる農家さんには、種籾は無償で提供してるんです」
「なんと……!? 先ほど食べたおにぎりからも、そちらのお米の品質がとんでもなく素晴らしいことはよく分かります。それを無償で……本当によろしいのですか?」
この世界では、農業を始めるにもそれを育てる権利と種を商会、もしくは権利元から買う必要があり、それがまあ結構な額するのが一般的だ。
そしてそうした場所は大抵貴族と繋がっており、無視すればタダでは済まない。
それゆえに、たとえば米農家が野菜を作りたいと思っても、資金がなければ始めることすらできないのだ。
これが、米がまずくて売れないにも関わらず、米農家が米農家として縛りつけられている大きな要因だ。
「フローレス商会もクライスカンパニーも、アリスティア様に正式に許可をいただいて運営しています。自分で言うのもなんですが、損はさせませんよ。もし承諾していただけるのであれば、フローレス商会が全力でバックアップします」
「なんとも心強い……。ぜひともお願いします」
こうして、ロカルとの契約が無事成立した。
「そうだフェリク君、精米機を見せてあげるといい」
「――あ! そうだった!!」
「精米機……とはいったい……?」
僕は荷馬車から精米機を持ち出し、応接室のテーブルに置く。
「これは――魔導具ですかな?」
「はい。茶色いお米を白くする作業、精米を自動でしてくれる魔導具です」
「な、なんと……! 精米はフェリク様のスキルの力だとお聞きしておりましたが」
「これまでは、僕のスキルで精米してたんです。でも量が増えすぎて手に負えなくなってきたので、魔導具で補えないかなって思って……。それでおじ――フローレスさんと領主様に力を貸していただいて作りました」
品種改良したお米をザル状の容器部分に入れて蓋を閉め、スイッチを押す。
すると中についているプロペラ状の金属が回り、お米の周囲についた糠を削ぎ落としていく仕組みだ。
数分もすると糠が落ち、ザルの中には白くなったお米が姿を現した。
「す、素晴らしい……! これで白米が食べ放題というわけですか」
「そういうことです。あ、でもお茶は玄米で作ってくださいね! その方が香ばしくておいしいお茶ができるはずです」
「この精米機は試作品ですが、現在テスト用に配布する精米機を量産中です。完成したら、ロカルにもいくつか無償でお送りします」
「ありがとうございます。こんな小さな村のために何から何まで……」
村長はそう、涙をにじませる。
きっと、これまでずっと苦労を重ねてきたのだろう。
うちも米農家だったから、その大変さは痛いほど分かっている。
このあとも、僕はロカルの人たちにお米を使った料理のレシピを伝え、アリア父は契約関連の諸々を進めて、うちの母は自作した野草図鑑で村の人たちと盛り上がって、あっという間に時間が過ぎていった。
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