第93話 ごはんといえば――なアレをついに!
「――それじゃあ、私たちはこの辺で」
「もう発たれるのですか? 今日はお泊りいただいても……」
「いえ、今日中に次の村についてしまいたいので。お気持ちだけ受け取っておきます。ありがとうございます」
アリア父から聞いた話では、この旅で10以上の村をまわる予定らしい。
王都から離れたこのアリスティア領には、ロカルのような貧しい農村や集落が、まだまだ多数存在しているという。
「そうですか、分かりました。お忙しい中、ロカルへ足をお運びくださりありがとうございました。フェリク様もありがとうございました」
「こちらこそ。素敵なお茶に出会えて本当に嬉しかったです。商品化、楽しみですね!」
こうして僕たちは馬車へ戻り、次の村へ向けて出発することになった。
村長の家を出ると、寝てしまってロカルを満喫し損ねたアリアが馬車から降り、地面にシートをひいてシャロとお茶会を開いていた。
村長宅に乗り込もうとするアリアを宥めようと、シャロが考案したらしい。
「も、申し訳ありませんっ。その、ほかに案が浮かばず……」
「ああ、いや、娘の面倒を見させてしまって申し訳ない。助かったよ」
「ちょっとパパ、人を邪魔者みたいに言わないでよっ。どうして起こしてくれなかったの!? 私だってクライスカンパニーの一員として来てるのにっ」
アリアはそう、頬を膨らませる。
「起きなかったじゃないか。寝るなとは言わないけど、社員として来ている自覚があるならせめてちゃんと起きなさい」
「むうーっ! パパの意地悪っ!」
「アリア、ごめんね。次の村では一緒に行こう。それからおいしいレシピを開発したんだ。今度試食してもらえるかな」
「……もうっ。今回はフェリクに免じて大人しくするわ。試食はする」
アリアは不服そうにしながらも、同い年の僕の前で我儘を言い続けるのは恥ずかしいと感じたのか、それだけ言って大人しくなった。
村長さんやお見送りに来てくれた人たちに挨拶をし、それぞれ馬車へと乗り込む。
「それじゃあ精米機とお茶の件、また改めてご連絡いたします」
「よろしくお願いいたします。道中お気をつけて」
ロカルを出て次の村へと向かうには、山を超える必要がある。
山道へと入ると、馬車が進む道の左右には多くの木々が生い茂っていた。
そんな森の様子をぼんやり眺めていると、ふとある木が視界に入った。
「――と、止まって!!!」
「!? おいどうしたフェリク」
馬車を止めてもらい、僕はその木の下へと走る。
見上げると――そこには黄味がかった丸い果実がたわわに実っていた。
ところどころ、ほんのり赤くなっている実もある。
「う、梅だ……。この世界にもあったんだ……」
「フェリク、突然どうしたの? この木がどうかしたの?」
気がつくと、うちの両親、それからアリア父とアリア、シャロとミアまで馬車から降り、僕のもとへと集まっていた。
皆、何が起きたのか分からずぽかんとしている。
「この木になってる実、これがほしい。できるだけたくさん!」
「べつに構わないが、この実はなんだい? おいしいのかい?」
「うん、これは」
「――待って、ダメ。これ毒があるわ」
スキル【鑑定・草】で確認したのか、母が慌てて止めに入る。
「ううん、この毒は抜けるんだ。大丈夫。ね、いいでしょ? 頼むよ」
「ぬ、抜ける? でもわざわざ危険をおかして毒入りの実を食べなくても……。ほかのじゃだめなの?」
「……ほかじゃダメなんだ。どうしても、この実がほしい」
「……なら、食べるのはお母さんが確認してからにすること。絶対よ。いいわね?」
「分かった。約束する!」
「まあ、そういうことなら……」
「よし、分かった。父さんに任せろ。スキル【身体強化・怪力】!」
父はスキルを使って肉体を強化し、下の方の枝を何本かへし折った。
やり方が豪快すぎるのが気になるが、まあ山の中にあるものだし、脚立もないし。
今回は「ごめんなさい」と心の中でつぶやいて黙っておくことにした。
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