第20章 アリスティア領ぐるり旅(後編)
第94話 一緒に楽しめるっていいな。
その後も僕たちは、数々の村や集落を回っていった。
そして回った先々で契約を交わし、品種改良済みの種籾をお裾分けして、おいしいごはんの炊き方と米レシピを伝授。お米の勢力拡大と普及を図っていった。
領主であるアリスティア家が本腰をいれている事業ということで、以前はフローレス商会と敵対していた商会も、今やほとんど協力関係にある。
また、ファルムが廃村となった経緯も、村民がどうなったかも広まっているらしく、クライス家に手を出そうとする者もいなくなった。
それどころか、貴族すらうちと良好な関係を築こうと、たびたび手土産付きの使者を送ってくる。逆に申し訳なく感じるくらいだ。
「ねえフェリク、あの実……梅、だっけ。あれっていつ食べられるの?」
「うーん、梅干しは1か月くらいで一応食べられるようになるけど、半年くらい置いた方がおいしいかな? 梅シロップは10日もあればできるよ」
「本当!? じゃあ梅シロップの方はもうすぐね!」
キラキラとした目で梅シロップの瓶を見つめるアリアに、僕の心まで幸せで満たされていく。
――作る過程も一緒に楽しめるっていいな。
アリアって本当、それなりにお嬢様なはずなんだけど、そういう感じが全然しないんだよな。いい意味で。
まあ、こんなこと本人に言ったら怒るだろうけど!
「フェリク、どうかした?」
「え? ああいや、何でもないよ。アリアとこうした時間を過ごせて嬉しいなって思ってさ」
「へっ!? えっ、なっ――!?」
アリアは一瞬で耳まで真っ赤になり、口をぱくぱくさせている。
なんだ? 僕、何かおかしなこと――
言ってたあああああ!!!
「あっ!? いや! その、べつに変な意味じゃなくて! 好きを共有できるっていいなって……意味でして……」
「わ、分かってるわよそんなことっ! というかフェリク顔真っ赤よ? まったくしょうがないわねっ」
「ええ……アリアこそ」
「……何か言った?」
「……いや、何もないですごめんなさい……」
先に言ったのはアリアなのに!
「お、何2人して赤くなってんだ? 早めの青春か?」
「だめよ、こういうのはそっと見守るのが親でしょ?」
いつの間にか両親がすぐ近くまで来ていた。死にたい。
「なんだい、みんな楽しそうだね?」
「おじさん……! な、何でもないよっ! それより次の村に行くんでしょ? 早くしないと今日中にたどり着けないよっ」
「――ふふ、なるほど? ……そうだ、私はクライスさんたちと話があるから、アリアはフェリク君の馬車に乗りなさい。フェリク君、ないとは思うけど、うちの娘に変なことをしたら社会的に殺すからね?」
「はあ!? し、しないわっ!」
思わず素で全力否定してしまった。
こいつに言われるとシャレにならなくて怖すぎる!
「それじゃあクライスさん、行きましょうか」
「お、おう」
「それじゃあフェリク、またあとでね~」
アリア父は含みのある笑みを浮かべ、うちの両親を連れてさっさと馬車へ乗り込んでしまった。
「な、なんだったの? というか変なことって何?」
「いやあ、本当なんだろうねー? とにかく馬車に乗ろうか」
まったく本当、これだから大人は!!!
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