第143話 あらぬ疑いをかけるのは本当にやめてほしい!
一通り挨拶を終え、あとは食事を楽しみながらの自由な時間となった。
領主様とともに両親やアリア一家のいるテーブルへ行き、用意されていた椅子に座る。このテーブルには、僕の近しい関係者が集まっている。
――つ、疲れた。
あとでまた個別の挨拶タイムが始まるんだろうけど、正直もう動きたくない……。
「旦那様、アリスティア辺境伯様、バターチキンカレーをお持ちいたしました」
僕たちが座ったタイミングで、グリッドが僕の分のカレーを運んできてくれた。
そして少し冷めてしまったであろう領主様のカレーを、温かいものに交換する。
「ありがとう」
「――いえ。それではごゆっくりお過ごしくださいませ」
グリッドは微笑み、一礼してほかのテーブルの様子を見に行った。
彼がいてくれて本当によかった。さすがは王城に勤めていた執事さんだな。
「フェリク、このバターチキンカレー? っていう料理、素晴らしいわ~。あとでお母さんにも作り方を教えてちょうだい」
「このドリンクも、ちょっと変わった味がするけど甘くてすごくおいしかったわ!」
「ありがとう。気に入ってくれてよかった。ドリンクは、玄米入りのほうじ茶――緑茶の茶葉を焙煎したものを、ミルクとスパイスで煮出してみたんだ」
「本当に、よくこんなの思いつくな? 父さんにはもはや意味が分からん」
「はっはっは。大人気じゃないか。よかったねフェリク君。準備も大変だっただろう? ――では、冷めないうちに私もいただくとしよう」
領主様は興味深げにカレーとごはんをすくい、一口食べて目を見開いた。
それから何も言わず、じっくり2口め、3口めと味わっていく。
「――い、いかがでしょう?」
「あ、ああ、すまない。これはすごいな。おいしくてつい無言のまま食べてしまったよ。スパイスを使った料理は王都付近や一部地域では珍しくないが、こんなに複雑かつ絶妙なバランスの料理は食べたことがない」
よ、よかったあああああ!
領主様にも通用する味でほっとした……。
でも、みんなならきっとおいしいと感じてくれるって信じてた!
「ありがとうございます!」
「あのチャイ風――とか言ったかな? あれにも驚いたが、いったいどこでこんな料理を覚えたんだい?」
「え……ええと。王都の屋台でスパイスのかかったチキンを食べて、ごはんと合う料理が作れるんじゃないかと思いまして……」
まあ実際は、その程度でカレーを作れるほど天才ではないんですけど!
でも前世のことはさすがに秘密ですごめんなさい!
「……ほう? だいぶ怪しいが、まあ今回はそういうことにしておこう。私を裏切ってほかの貴族と何かしている、なんてことはないだろうね?」
「!? ま、まさか! そんなこと絶対、神に誓ってありえません!!!」
「――ならいい。君にも秘密にしたいことくらいあるだろうし、これは君の武器だからね。詮索はしないよ」
領主様はそう言って苦笑し、再びカレーを食べ始めた。
周囲に一瞬張りつめた氷点下の空気も、それと同時に消失する。
――――び、びっくりした。領主様もけっこう疑い深いよね。
これだけお世話になっててて裏切るなんて、そんなことあるわけないのに。
まあ、それだけいろんなことがあったんだろうけど。
でも敵に回したら一瞬ですべてが終わることくらい理解しているので、僕にあらぬ疑いをかけるのは本当にやめてほしい!
みんなが食事を終えた後は、みんなが持ってきてくれたお酒やジュース、甘酒などを用意して、自由な交流の時間を取った。
僕はなるべく目立たないように気配を消していたつもりだったけど、主催なのにそううまくいくはずもなく。
終始みんなに囲まれて、列までできる事態となってしまった。
まあ、お米の話をこんなに熱心に聞いてもらえることなんて前世ではなかったし、そういう意味では僕も楽しめたけど!
こうしてお披露目会はつつがなく終え、日帰りの人は日帰り、一泊する人は一泊して、それぞれ帰っていった。
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