第142話 バターチキンカレーとチャイ風ドリンク【レシピあり】

「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます。早速ですが、料理が冷めないよう、挨拶は食べながらお聞きいただければと思います。どうぞ召し上がってください。それでは――乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」


 僕の言葉を受けて、一同飲み物の入ったグラスをかざす。

 お披露目会に呼んだのは、既に僕と交流のある人か、もしくはクライス工場で働いているお偉いさんたちばかり。

 つまり、お米料理の素晴らしさに魅了されている人たちが集められている。

 だからまったくの初めまして、という人はほとんどいないんだけど。


 それでも緊張するうううううううううううう!

 あわよくば、僕の挨拶なんかそっちのけで料理に集中していてほしい!!!


 ちなみに飲み物は、濃いめの玄米入りほうじ茶にシナモンとカルダモン、クローブ、それから生姜を少々と砂糖、ミルクを加えたチャイ風ドリンク。

 スパイスを手に入れた際、カレーを食べるときはこれと一緒がいい! と考えていたものだ。


 気に入ってもらえるといいな。

 僕は絶対においしいと思ってるけど、料理のプロも多いし舌も肥えてるだろうからどうだろう……。


 ――なんて思っていたのもつかの間。

 チャイ風ドリンクを口にした来場者たちは、「うまい!」「飲んだことのない味だ」と一気にざわめき、周囲の人とともに感動を分かち合ってくれた。よしっ!

 周囲に配置しているメイドさんやフローレス商会の従業員さんが、「これもお米が使われている飲み物なんですよ」とひそひそ説明している声が聞こえてくる。


「――チャイ風ドリンク、お気に召していただけたようでよかったです。えっと、それでは改めまして。僕がここまで来られたのも、皆様の助けがあってこそです。心より感謝申し上げます。この屋敷は、領主である父と国王陛下のお力添えにより建てられたもので――」


 僕はこれまでの経緯を含む挨拶(をグリッドがまとめてくれたもの)をどうにか読み終え、一礼する。

 挨拶の間は、緊張で生きた心地がしなかったが。

 会場内に拍手が巻き起こったことで無事終えたのだと理解し、体の力が抜けそうになった。


 ――と、そこで僕の限界を感じたのか、領主様が壇上へ来てくれた。

 そしてそのまま、冗談を交えて人を楽しませながら重要ポイントはすべて押さえ、さりげなく料理まで勧めるという素敵トークを繰り広げ、僕の緊張をほぐしてくれる。さすがすぎて拝み倒したい気持ちだ。


「――それでフェリク君、料理の説明がまだだったね?」

「あっ――! すみません。ええと、本日ご用意した料理は――」


 そこまで言って、バターチキンカレーを口にしたみんなが無言のまま固まっていることに気づいた。


 ――あ、あれ? 口に合わなかった?

 きっとみんなもおいしさのあまり動けないだけ、だよね?

 いやいやダメだ。僕がごはんとカレーの力を信じなくてどうする!!!


「――ご用意した料理は、先ほどお飲みいただいたチャイ風ドリンク、王女殿下にもお召し上がりいただいた天津チャーハン、僕の母が考案したオムライス、それからバターチキンカレーというスパイス料理、なんですが……。ええと、いかがでしょうか?」


 こんな会場に設置された壇上から問いかけられても困るかもしれない、と思いつつ、みんなの感想が知りたくて、つい質問が口から出てしまった。

 自身があるとはいえ、万が一不評だったらどうしよう、と緊張で目が回りそうだ。しかし。


「――な、なんだこの料理。こんなうまいものを食べたのは初めてだ」

「めちゃくちゃうまいぞ。なんかこう、うまく表現できないのにうまい! 複雑なのにちゃんとまとまってるっつーか……とにかくすごい!」

「すごくおいしい! これ何が入ってるの? コクがあって、どこまでも探りを入れたくなるような奥行きを感じる味ね。鼻に抜ける香りがたまらないわ~」

「王都へ行けば変わったスパイスがたくさん売ってるけど、こんな使い方をしているのは見たことないな。感動的なまでにごはんと合う」


 会場がみんなの感動で騒然となり、その高揚した様子から気に入ってくれたことが伝わってきた。よ、よかった……!


「――だそうだよ。よかったね。私もあとでいただこう」

「あ、ありがとうございます。――あ、カレーはおかわりもあるのでたくさん食べてください! それから、ほかの料理もお召し上がりいただけると嬉しいです!」


 試食会を兼ねてるからごはんものばかりだし、飽きられたら――と思ったが、いらぬ心配だったらしい。

 みんなあっという間にカレーを完食し、大皿に作った天津チャーハンやオムライスにも手を伸ばし始めた。

 アリアと父さんを含む人たちの、おかわりを要求している姿も見える。


 ――うう、みんなの幸せそうな顔が嬉しい。


 僕が作ったバターチキンカレーが、天津チャーハンが、オムライスがこんなに多くの人たちを笑顔にしている。嬉しくて泣いてしまいそうだ。

 僕は壇上で目頭を押さえ、必死で涙をこらえた。


 *****

【レシピ】バターチキンカレー&玄米入りほうじ茶のチャイ風ドリンク(写真あり)

 https://kakuyomu.jp/users/bochi_neko/news/16817330660820398239

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