第100話 第三王女がごはん料理をご所望らしい

「――それで、お話というのは?」

「実は、第三王女様が、君のごはん料理を食べたいそうだ」

「――――は!?」

「うちの娘が全寮制の貴族学校に通っているのは知ってるね? 少し前、そこと王都の学校とで合同合宿があったらしいんだが――」


 領主様によると。

 王都の貴族学校に通っている第三王女・カタリアナとフィーユが、合宿中に意気投合して仲良くなったらしく。

 その際に、僕がフィーユの従者に伝えたごはん料理をカタリアナ王女が食べ、大変気に入ったそうなのだ。


 ――うん、世界が違いすぎて状況がよく分からない!

 というか、アリスティア家って本当にすごい家だったんだな。

 こんなこと口が裂けても言えないけど!


「え、ええと……つまり僕はどうしたらいいんでしょうか」

「フィーユとともに王都の学校へ行って、王女様に料理を作ってほしい」

「え――っと……シェフでも何でもない僕が、ですか?」

「そうだ。ちなみに第三王女の個人的な頼みとはいえ、王族からのお誘いだ。断ったらどうなるか、君なら分かるね?」

「…………」


 どうやら断るという選択肢は用意されていないらしい。


「し、承知しました。ちなみに、何を召し上がられたんでしょうか?」

「フィーユが言うには、最初は昼食に持っていたおこげサンドに興味を示されたそうだよ。次はおにぎり、その次は焼きおにぎりを一緒に食べたと言っていたかな」


 王族と貴族の昼食でまさかのおこげサンドとおにぎり!

 さすがにこの展開は予想してなかった!!!

 というか、フィーユ様の学校はいいのか?

 王都まではだいぶ距離があるし、いろいろ考えると1か月は帰ってこれなさそうだけど……。


「半月後の連休前に、王家の遣いの者が迎えにくる。彼らはスキル【転移】持ちだから、数分もあれば王都に着くだろう」

「す、数分……!?」

「王家に所属している転移専門の従者だからね」


 ――そうか。


 今はまだ子どもだけど、アリアが持っているスキル【転移】は、上位スキルと呼ばれている貴重なものだ。

 いずれは王城で働く――なんてこともあるかもしれない。


 アリアは、10歳になったら本格的にスキルを磨くことになっている。

 スキル【転移】保持者が少ないため、教えられる人も少なく、今は順番待ち状態なのだという。


 ……そうなったら、あっという間に手の届かない存在になるんだろうな。


 アリアの成長は喜ばしいことのはずだが、寂しさもないと言ったら嘘になる。

 遠くへ行ってしまうアリアを想像すると、ぎゅっと心臓を掴まれたような痛みを覚え――って何考えてんだ僕……。


「――それでだ。君にはこの半月で、カタリアナ王女と会うにふさわしいマナー、それから知識を身につけてもらう」

「――――え」

「君はクライス家の息子ではあるが、今やうちとも切っても切れない関係性だ。特に今回は、アリスティア家の関係者として向かわせることになる。そんな無知な状態では行かせられないよ」


 そ、そんな……。

 たった半月でそんなこと叩き込まれるなんて、しかも拒否権もないなんて、理不尽にも程がある……。

 僕はお米の研究ができて、おいしいお米が食べられればそれでいいのに!


 できることなら全力で拒否したい。

 が、僕は平民の子で、相手は領主様と王族だ。

 以前アリア父にも言われたが、立場を忘れてはいけない。


「わ、分かりました……。最善を尽くします」


 無事終わらせて、早く平和な日々に戻れますように!!!

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