第120話 まったくこれだから女の子は!

「フェリク、最近働きすぎじゃない?」


 工房の執務室で書類の山と戦っていると、アリアがやってきた。

 アリアは心配そうに、そして不満げにこちらを見ている。

 アリアの性格から考えるに、僕が休む間もなく働かされているのが気に食わないのだろう。優しい子だ。


「王城からの迎えが来るまでに、資料を作らないといけなくてさ。あとは服やら何やらの用意もしないとってりょ――ち、父上が」

「……なんかフェリクが領主様のこと父上っていうの、変な感じね。フェリク、パパもママもちゃんといるのに」


 それは僕も思ってる!


「この間も話しただろ。いろいろと状況を心配してくれてのことだよ」

「それはそうなんだろうけど。……そ、それよりフェリク」

「うん?」

「その、この間はごめんね。突然泣いて困らせて。私、フェリクが手の届かないところへ行っちゃうって思ったら、怖くて寂しくて仕方がなかったの」


 再び顔を上げてアリアを見ると、俯いてもじもじしながら顔を赤くしていた。

 こうして恥ずかしがりながらも素直に気持ちを伝え、謝れるのは、アリアのすごいところだと思う。


「いや、僕の方こそ説明してなくてごめんね。幼馴染が突然貴族の、しかも辺境伯の養子になったら、そりゃびっくりするよね」

「本当よ! これまでみたいに普通に会ったり話したりできなくなるかもって、すっごくショックだったんだからっ! ……フィーユ様のこともあるしっ」


 アリアはそう、頬を膨らませる。

 フィーユ様のこと――というのは、フィーユ様が僕のことを好きだとか何とか、そういうののことだろうか?

 それとも、フィーユ様の嫉妬でメイドにいじめられたこと?

 でもあのメイドはもういないし……。


「……前も言ったけど、僕にとってアリアは特別なんだ。アリアが寂しい思いをするような出世なら、僕はいらないよ」

「なっ――――はあっ!? な、ななななななによっ、フェリクなんてまだ子どものくせに! お子ちゃまなくせにぃぃぃいぃっ」

「はあっ!? ち、ちょ――」


 おまえに言われたくねえよ!!!!!

 というか生まれた日まで一緒なのに何言ってんだ!

 ――と返す隙もなく、アリアはそのままどこかへ走り去ってしまった。

 まったくこれだから女の子は!


「――フェリク様、アリア様が顔を真っ赤にして走り去っていくのが見えましたが、何かあったんですか?」

「いや、何もないよ。いつもの発作だから気にしないで……」

「発作って……。そ、そういえば、フェリク様はアリア様のこと、どう思ってらっしゃるんです? 大事な幼馴染、なんですよね?」


 アリアと入れ替わりで入ってきたシャロは、好奇心に満ちた目でこちらを見る。


「どうって……うん、大事な幼馴染だよ」

「それだけですか?」

「……それだけ? まあしいて言うなら、家族みたいな存在でもあるかな」

「ほうほうなるほど。つまり将来の奥様候補、ということでしょうか」

「――――っは、はあっ!?」


 にまにまと意味深な笑みを浮かべながら探りを入れてくるシャロに、思わず思いっきり声を上げてしまった。

 というか! メイドならそんなこと気にしてないでちゃんと仕事しろよ!

 今僕めちゃくちゃ忙しいんだぞ!!!

 まったくこれだから女の子は!

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